ワルター、ボストン交響楽団の『ハフナー』


モーツァルト 交響曲第35番ニ長調『ハフナー』
ハイドン 交響曲第92番ト長調『オックスフォード』

ブルーノ・ワルター指揮 ボストン交響楽団
■1947/1/21
■ライヴ録音
■BWS 1041 日本ブルーノ・ワルター協会LP

ワルターを語る上での基本文献である宇野功芳『ブルーノ・ワルター』では、1940年代はこの指揮者の激動期であり過渡期とされる。宇野氏は「スランプ」とまで言う。
たしかに、米コロムビア時代の録音には、50年代の名盤の森に比べ、物足りないものもある。
しかし、当盤に刻まれた、生気満ち溢れた演奏を聴くと、それは事実なのか、という疑念がわく。
この「ハフナー」は、出だしから53年盤と同じ、モーツァルトの魅力があふれ出る。
すこしの不安も、躊躇もなく、曲の隅々まで自在なテンポで、激情的といっていいくらいの「濃さ」で歌いつくす。
第二楽章のリズミカルな主題すら、音を滑らかにつないで歌ってしまうのだ。
そしてフィナーレは、あふれ出る情熱に圧倒される。

ワルターのモーツァルトの魅力は、音域にわずかな抑制もかかっていないと感じさせるところ。
現代楽器の性能を駆使して、熱くロマンティックにモーツァルトを奏でる人は、決してワルターだけではない。たとえばベーム、ケルテス、バーンスタインなども。
が、彼らの演奏は、どれだけ力を漲らせ、歌いつくそうとしていても、どこかで
「これはモーツァルトだから」
という抑制が、意識的に加わっていると思う。
しかし、ワルターの録音からは、それが感じられない。盛り上がるところは、いつも目いっぱいの音が出ている。
それでなお、やりすぎているとか、モーツァルトから逸脱しているとは感じないのだ。
こういうのを離れ業というのではないだろうか。

この47年盤は、ワルターが興に乗り、随所でうなり声を出しながらオーケストラをドライブしている。ボストン交響楽団の弦楽器の音色は豊かで温かく、ワルターの棒にあわせて俊敏に変化していくさまもよく伝わる。指揮者への共感度は、高いのだ。
神保町の『イディア・クラシック』で入手した、古い協会盤だ。ジャケットも白色の汎用品で味気ない。が、思いのほか盤質も音の状態もいい。意外な掘り出し物だった。

ワルターとボストン交響楽団は、珍しい組み合わせ。
ディスクは、かつて一枚だけ、マーラーの交響曲第4番を演奏したものがキングレコードから出ていた。CDである。これも所持していた。確かめると、47年3月25日の録音とある。
少し聴いてみると、録音の感じもよく似ている。
同じ人のエア・チェック、または同じ条件下での記録用録音なのだろう。データ通りなら、当盤の演奏会から二ヵ月後にも、同じ街で演奏を行ったわけだ。
ワルターは、71才。
この間二ヶ月は、ゆったりとボストンでの日々を楽しんだのだろう…と、私は思った。

が、とんでもない思い違いであった。

danno氏の運営する「ブルーノ・ワルター・ホームページ」の1947年の記録を見てみよう。http://www2.starcat.ne.jp/~danno/katudou/1947.htm


1/14 ボストンso演奏会 
1/21 ボストンso演奏会 
2月 ニュヨークフィルの音楽監督に就任 
2/6・7 NYPO演奏会 
2/7 メトロポリタン歌劇場o・ピンツァとモーツァルト/アリアを録音 
2/9 NYPO演奏会 
2/10 NYPOとマーラー#5を世界初録音 
2/11 NYPO演奏会 
2/13・14 NYPO演奏会 
2/16 NYPO演奏会 
3/1 フィラデルフィア管演奏会 
3/2 フィラデルフィアと「未完成」を録音 
3/6・7 NYPO演奏会 
3/9 NYPO演奏会 
3/25 ボストンso演奏会


この二ヶ月の間に、10回の演奏会と、三つのレコーディング。
大曲、マーラーの交響曲第五番の世界初録音すらも、たったの一日でやり遂げている。
「スランプ」の時期の、70すぎの人間の、これが仕事振りなのか。

人は、ほんとうに計り知れないものだ。少ない資料で、好不調を云々するなんて、間違いのもと。
40年代の、ワルターの演奏については、再検討が必要だと思う。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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