「声の道と、身体で読むこと」~村中李衣さんのお話①

2017年8月8日、豊橋で、児童文学者の村中李衣さんの講演を聴きました。
場所はライフポートとよはしコンサートホール。地域の国語教員を集めての夏季研集会の企画でした。



村中さんは、ネコパパが大好きな作家です。デビュー作「かむさはむにだ」(1984)以来、全著作をフォローしている、数少ない作家…ということで、もう随分前からわくわくしていました。

村中李衣の、どこが好きなのか?
彼女自身の言葉を引用します。

「子ども、老人、障碍者、弱い立場にいるものを担ぎ出しては、そのことで自分のよさをひけらかそうとしている人のなんと多いことか」
「その子らしさ、はあっても、子どもらしさ、なんてものはありえない。子どもらしさは大人の幻想、子どものくせに、は大人の傲慢。『らしさ』と『くせに』の壁に負けて『らしさ』の演技を身につけたりはしないでほしいな」
「図書館とは、あなたはここにいていいんだよ、ここがあなたの場所だよ、と無言のメッセージで包んでくれる公共の場所でなくてはなりません」

―村中李衣『そっちへ行ったらあぶないにほんご』(2002.7.草土文化)より

こんふうに考える人。
そして…村中さんの児童文学は、この考えを登場人物の姿として描き出すことで実証しようとする、終わりのない旅の記録になっています。そんなところが好きです。
多分に子どもっぽいネコパパは、村中作品を読んでいると、ここに自分の居場所があるような気がするんです。うんとね。

さて、講演会が始まります…

講演「声を育て、学びを深める」村中李衣



台風と追っかけっこしながらやってきました。
二週間前まで熊本で子どもやお年寄りと「読み合い」です。
最近作った本、リブロポートから出ている「きらわれものシリーズ」を読みました。
そのなかに「ちくちくするやつ」アリがでてきます。
アリは一つの巣の中に、何匹くらいいるでしょう。三択で行きますよ…答えは、30万匹!
大人はそれを聞いて「ひえー、ぞわぞわする」と思いますね。でも子どもは「ひょえー、せまーい」と思ったりします。大人は気持ち悪いと思う。でも子どもはアリになる。
カブトムシは、自分の体の250倍の重さを持ち上げます。大人は「力持ちねえ。感心したわ」子どもはバッターンと倒れて「すっげー!」
上に向かった視線の先に、彼は250人をみたのです。子どもは、そうやって情報を収集します。わかるの意味が違う。体でわかろうとします。

■声の道をつくる

今朝東京から新幹線で来て、名古屋で乗り換えました。三人席の両隣が、若い男性でした。二人ともスマホ。萌え系の画像。イヤホンで合成音を聞いていました。
アニメは、その人物から声が出ているのではありません。
みんな、ナマの声を聞いていない。
でもみなさんは先生です。授業では、生の声でやり取りします。とても貴重な時間です。

「声の道」をつくってみましょう。
二人組になって、一人は目を閉じる。もうひとりがニックネームで呼びかける。あっちに、こっちに、相手の真ん中に。
「自分が呼ばれたと思ったら、返事をするのよ。

ネコパパの隣は、蒲郡の若い中学校教師でした。
「イケチと読んでください」
「じゃあ私は、ネコパパで」
「いきますよ。ネコパパ…ネコパパ?、ネコパパ!」
「はあい」
自分に向かって声をかけられたことがはっきりとわかりました。
「イケチ」も成功です。

村中さんの話が続きます。

声の道を通って言葉が届くのは、嬉しいものですね。声の道があると、喧騒もうるさくなく、周りの人の声も気になりません。
届くということが、嬉しい。
お母さんもやってみましょう。まな板に向かって子どもに文句を言ってもダメ。その声、ネギやまな板には届いていますが、子どもには届いていません。

あーといってよ、あー」(福音館書店)



という絵本があります。読み聞かせは意味がない。いっしょに読むんです。扇風機をみると、あ~、っていいうでしょう。声が震えるのが面白い。

どうぶつはやくちあいうえお」(のら書店)



「あんぱんぱくぱくぱんだのぱんや」はい、言ってみて!
次は身振りを付けて言いましょう。
言葉の構造がわかるともっと面白い。母音の「あ」にもいろんな気持ちがこもっています。あー、は大きな木、あー、はだっこ。あいしてる、にはいろんな気持ちがあつまっている。

■文学教材を体で読む

気になる「スイミー」(レオ・レオニ 谷川俊太郎訳)。
絵本と教科書の文章が違います。(冒頭を読み比べる)
違いが分かりますか。「ひろいうみのどこかに、さかなのきょうだいたちが、たのしくくらしてた」
教科書では「くらしていた」です。
「みんなあかいのに、いっぴきだけはカラスガイよりもまっくろ。でも およぐのは だれよりも はやかった」
教科書では「でも」がありません。
原作の大切なところが、これだけで抜け落ちます。
「くらしていた」が文法的に正しい?
「まっくろ」と「およぐのがはやい」は逆接じゃないから?
でも、子どもの体にスッキリ落ちるのは、絵本の文です。

私の作品「走れ」が教科書に掲載されています。




現場の先生からもたくさん質問をいただきますが、一番多いのが最後のところの会話文「走れ、そのまんま走れ」は誰が言ったのか、ということです。
作者は、答えを教えません。「体で知ってください」と答えます。
そうしたらある学校の先生が、実際に動作をやってみながら読む授業をしました。
そうしたら、わかった。子どもたちの結論は「自分が自分に言った」だったそうです。
村中さんは、作家活動の傍ら、子ども、高齢者、障害者への臨床的な読書支援を長く行ってきました。参加者と「声の出会い」を促すワークショップを交えながらの講演をお聞きしていると、「体と言葉が繋がる」実感が、大きな手応えとなってネコパパの胸に響いてきました。

つづく。

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コメント

コメント(13)
No title
素敵な著者と著書を紹介していただき、ありがとうございます。この方のことは全く知りませんでした。図書館を漁って、読んでみようと思いました。

”音”故知新

2017/08/28 URL 編集返信

No title
> ”音”故知新さん
読んでみようと思っていただけるとは、嬉しいです。
村中李衣については、当ブログでも何度か取り上げていますので、もしよろしければご一読ください。

「チャーシューの月」https://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/37959669.html
「絵本の奥に潜むもの」https://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/36525634.html
「はんぶんぺぺちゃん」https://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/27861908.html

yositaka

2017/08/28 URL 編集返信

No title
村中李衣さん、私も大ファンです❤今年の2月に行ったセミナーの〝たまたま〟講師の方でした。そうです、〝たまたま〟が今ではどこかでお話し会はないかと検索し、ご著書もワクワクドキドキしながら読んでいます。
ここまで『ひとの声』にこころを傾けられる人がいるでしょうか?年齢を問わずあらゆる『ひと』の。素敵です……

たけながゆり

2019/05/10 URL 編集返信

No title
> たけながゆりさん
2月にお話を聞かれましたか。きっと素晴らしい体験だったことでしょう。私はこの豊橋に続いて、京都でも、より親密にお話する機会がありました。
村中さんの新刊も見逃さないようにしています。そっと目立たず出されるので、なかなか気づくのが遅くなってしまいます。最近入手したのは『マネキンさんが来た』。まだ読んでいませんが、ワクワクしています。

yositaka

2019/05/10 URL 編集返信

No title
ねこパパさん!
もしかして2月京都での親睦会に参加されたのですか!?わぁ、いいなあ❤23日の講義に参加された方がスゴくよかったとおっしゃっていました😊
『マネキンさんが来た』読んでみます!ワクワクしますね☺『ここほのほつれ、なおし屋さん』もよかったです。女子大生の心のありようがリアルでドキドキハラハラしました。

たけながゆり

2019/05/11 URL 編集返信

No title
失礼しました、
『こころのほつれ、なおし屋さん』です😆

たけながゆり

2019/05/11 URL 編集返信

No title
> たけながゆりさん
いえ、私が村中さんのお話を聞く機会を得たのは2017年11月、ノートルダム清心女子大学で行われたイギリス日本児童文学会研究大会でのことです。
翻訳絵本についてのシンポジウムで、さくまゆみこさんもご一緒でした。参加人数が少なかったこともあって、私も好き勝手に発言して「親密なお話」ができたと思っているわけです。
村中さんにはまだまだ教えていただきたいことがたくさんあるので、今後も機会をみつけてこの種の研究会に参加しようと思っています。
そのときの記事はこれです。
よろしければお読みください。
https://blogs.yahoo.co.jp/izumibun/40776281.html

yositaka

2019/05/11 URL 編集返信

No title
なるほど……
とても難しそうな会ですね。しかしこの場で繰り広げられるやりとりはきっと、私にもとても興味深く、卓球のラリーを見るような感じかもしれません。
ねこパパさんのブログで村中さんのお話しをまた探してみたいと思います😊

たけながゆり

2019/05/12 URL 編集返信

No title
> たけながゆりさん
卓球のラリー…まさしくそんな感じでしたね。よくわからないことでも勇気を出して質問したり発言したりすると、思わぬ展開をすることもあって楽しいです。どこかでご一緒できるといいですね。

yositaka

2019/05/13 URL 編集返信

No title
はい!是非に。。
ネコパパさん、また村中さんのお話しを伺える機会がありましたら、ブログなどでお知らせいただけましたらとてもとても嬉しいです。
私も見つけましたらお知らせいたします!

たけながゆり

2019/05/13 URL 編集返信

No title
> たけながゆりさん
よろしくお願いします。

yositaka

2019/05/13 URL 編集返信

No title
ネコパパさん!『マネキンさんがきた』すごくよかったです!!
あとがきからもうかがえる色んな思いや周りの意見もありながら、小学4年生の子ども達と先生方の関わり…実話を元にしたと知り益々感動しました。こういった事になかなか真っ正面から向き合えない時代のように思っていましたがとても心が温かくなりました。
素敵な出会いに大感謝です😊

たけながゆり

2019/05/25 URL 編集返信

No title
> たけながゆりさん
楽しんでいただけましたか。
ひとに本をお薦めするのはとても難しくて、先日も当ブログで触れた本を読まれた方が「いささかつまらなかった」と書かれていたのを読んで「いささか落胆」していたところでした。自分で書いたわけではなくても、共感した本というのはもう自分の一部になっているのかもしれません。

yositaka

2019/05/26 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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