マゼールの田園②独特な表現に浮かび出る不可思議さ

ベートーヴェン 交響曲第6番「田園」
エグモント序曲※
レオノーレ序曲第3番※
 


ロリン・マゼール指揮
クリーヴランド管弦楽団
R1978.2
メソニック・オーディトリアム
Sony国内盤CD(ファミリークラブ通販盤※カップリング曲はコリン・ディヴィス指揮バイエルン放送交響楽団)
初出 米CBS
 
初回録音から19年後の2度目の録音である。
演奏の特徴は、旧盤では淡々としていた第2、第5楽章が、大きく変貌していることだ。

1楽章11:40
提示部の反復が行われているが、基本的な造形は旧盤と変わらない。
冒頭のオーボエが強調されるが、弦楽主体のバランスで、ホルンは遠い。
弦のリズムの刻みの強さはやはり特徴的だが、さらに細かい操作が目立つ。
フレーズの切れ目の強調、小節単位での音量の大きな増減、木管のソロを浮上させるための音量調整。
展開部の後半のピチカートも旧盤と同じく、鮮明だ。
ただ、全体に音が硬質できつい感じ。
「田園」というより、近代建築の立ち並ぶビル街を散歩するベートーヴェンという趣がある。

2楽章12:50
さらりと早めに開始され、木管の音も弱く、愉悦感が少ない。
旧盤と同じような演奏か、と思っていると、次第に耳を惹きつける細かな工夫が、あちこちで顔を出し始める。
コントラバスやチェロの音を強めたり、伴奏部分と旋律部分の音量を逆転させて、新味のある響きを作り出したり。
とくに凄いと思ったのは、管楽器のソロが連続する部分で、合いの手のを入れる弦の反復音を、いちいち鋭く切り込むように演奏させるところだ。
記憶している音とは随分違う。こんなふうにも演奏できるのだ、ということを誇らしげに見せつけているみたい。
もしかしてマゼール、「作曲」を楽しんでる?
コーダの鳥の歌も独特。自然描写というより、抽象絵画描線を音にしたかのようである。

3楽章5:11
尖ったリズム、整然たる合奏でストレートに進行する。
ここは旧盤とほとんど同じ解釈だ。
トリオではわずかにテンポを早めるが、躍動的な舞踏感覚はあまり感じられない。

4楽章3:33
意表を付いた、あっさりとしたフォルティッシモ。
決めのティンパニは弱く、背後で遠雷のように鳴っている。金管と打楽器の雄叫びや破裂音はほとんどなく、旧盤以上に大人しい表現かも。
とにかく、執拗な弦の刻みこそがこの楽章の全てと考えているようだ。このあたり、うるさすぎる音楽と思っている人にぜひ一度聞いてみてほしい。曲の認識が変わるかもしれない。

5楽章11:56
旧盤との違いがもっとも目立つ楽章である。
テンポは遅め。初めのうちは、第2ヴァイオリン、ヴィオラなど伴奏の動きの明晰さが目立つくらいで、ごく淡々と進んでいく。
ところが、6分を過ぎるあたり、曲の中間をすきるあたりから、コントラバス、チェロの強調、突然のクレシェンドなど、凝った表情が次々に現れるようになる。
そして、全体の音量、音圧も上がってくる。
しかし、これを「高揚」と呼ぶのはどうだろうか。
音量は上がっても、音自体の体温は低い。耳に痛い硬さがあって、聞いていてスムーズに感情移入ができないのである。
コーダでは大きなリタルダントがかかり、コラール風の締めのフレーズは、たっぷりと間をあけながら、もったいぶった感じで全曲を締めくくる。
 
旧盤で淡々としすぎていると感じた二つの楽章に、新盤では意識して特別な表現が繰り出されている。
おそらくマゼールは新録音に際して、以前の自分とは違う、新しい演奏を提示しようとしたのだろう。
そこには「同じものならいらない」というプロの矜持と意欲が感じられる。
しかし個人的には、その意欲は「田園」という音楽そのものではなく、
なにか別のものに向かっているような気がする。
そのあたりにネコパパは、マゼールという人の演奏に「不可思議さ」を感じてしまうのだ。

録音についても一言。
1978年というのに、テープヒスが目立ったり、強音での濁りがあったり、必ずしも優秀とは言えないように思う。それが実際以上に硬質な響きと感じさせるのかもしれない。
架蔵のCDはコリン・デイヴィス指揮の二つの序曲がカプリングされているが、こちらは優秀録音の名も高い音源だけに、落差がいっそう目立ってしまった。





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コメント

コメント(4)
No title
以前、ある種アンダーレイテッド・コンダクターの代表 ― もちろん世は“大指揮者”扱いで、田崎真珠のテレビCMに出ていたり… ― として聴いてみたくなり、クリーヴランドとのベートーヴェン全集、ベルリン・フィルとの第5、第6、ウィーンとの『運命』『未完成』、それに『幻想』(CBS)から『英雄の生涯』(同前)あたりを集めて聴きました。

ベートーヴェンは、
> マゼールという人の演奏に「不可思議さ」を感じてしまうのだ。
とおっしゃるのと通ずるでしょうか、作品の‘芯’をどう捕らえているのか聞き取れないのでした。
『幻想』と『英雄の生涯』はなかなか個性的で楽曲のキャラとも合っていいとおもいました。しかし前者はミュンシュ/パリ管などを採り、結局手許に残ったのは『英雄の生涯』だけです(← これはいいと思います)。

BPOとのブルックナー(EMI)は、まるでゴーストタウンのように「人気(ひとけ)」のしない世界だと感じました。今聴くと印象はまた違うかもしれませんが…。

へうたむ

2017/03/19 URL 編集返信

No title
> へうたむさん
「不可思議さ」というのは、作品の‘芯’をとらえた演奏も間違いなく存在することも含まれます。
ウィーン・フィルを振ったブルックナーとマーラーのそれぞれの「第5交響曲」など、本当に見事です。『英雄の生涯』もきっとそちらの部類でしょう。それでつい、期待してしまうのですが、なぜかはぐらかされることが多い。
まったく、不可思議な人なのです。

yositaka

2017/03/20 URL 編集返信

No title
このクリーブランドとのベートーヴェンは何度か購入予定リストに挙げて十年単位で未だにそのままになっています。
宇野評ほかいろんな人が、これについてはベートーヴェン解釈として全集としては(コアな部分で)聴き比べに面白い一品であるとされています。
個人的にはマゼールとベートーヴェン、ブルックナーは何となく水と油という感覚がぬぐえませんが。
ブルックナーはともかく、これについては今後都内DUでみかけたら衝動買いしそうですけど。
ウィーンフィルとのマーラーなどもいたるDUにてタダ同然価格で見かけますけど、ベートーヴェンは未だに拾えていません。

mae*a_h*210**922

2017/03/22 URL 編集返信

No title
> 老究さん
私も全集端本(端盤?)の投げ売り盤でなければ手を出さなかったところです。
演奏の個性的なところは、楽しめる方もあるかと思いますが、音質が78年としてはいまひとつなので、一般にお薦めするには躊躇します。
なおマゼールは、かなりのちになってバイエルン放送交響楽団とも「田園」を収録しています。ただし映像作品ですが…いずれ視聴する機会があれば、これも取り上げたいと思います。

yositaka

2017/03/23 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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