マゼールの田園①ベテラン指揮者とのニアミス

ベートーヴェン
交響曲第6番『田園』
12のコントルダンス(オリジナル盤のカップリング曲)



ロリン・マゼール指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音 19591127-28日、122-3日、1960329
ベルリン、イエス・キリスト教会 
DGG(独CD、国内盤ヘリオドールLP)

 
1楽章9:31
中庸のテンポで開始。
すぐ耳に飛び込んでくるのは、かっちりと整然たる響きだ。
フレーズの長短、各パートの音量バランスなど、隅々までコントロールされていることがわかる。
提示部はヴァイオリン中心のオーソドックスな流れ。
しかし、展開部以降は、マゼールの個性が煌めく。
強弱のバランスを工夫し、埋もれがちなパートを浮かび上がらせ、リズムは鋭い。
普段はブレンドされた響きとして聴いている箇所も、譜面が透けて見えるように解きほぐされていく。
ベームがセッション録音で見事に浮かび上がらせた、あの展開部後半のピチカートも、はっきりと聴こえてくる。
ここにあるのは流れに身を任せた自発性よりも、指揮者の統制によって作りだされた構築美だ。
しっかり出来ている。無駄もない。けれど、ちょっと感触は堅い…

2楽章11:46
弱音でそっと開始される。
早めのテンポでさらさらと流れるが、音の起伏やドラマは意識して押さえられているようである。
この楽章の情感を楽しむには、やや淡白に過ぎる表現と感じられた。

3楽章5:25
今度は遅めだ。
クラリネットとホルンの音色が美しい。ここも描写的ではなく、整然たる合奏で通す。トリオも強音で盛り上げたりしないで、室内楽的な透明感を保持する。

4楽章3:40
敢えて描写性を排除するかのように、音圧を低めに抑え、凝縮感だけで勝負している。ティンパニとトランペットが溶け合った破裂音、中間部の木管金管の動き、高らかに音をのばすピッコロ。
音のドラマよりも一瞬一瞬の鮮度にウエイトを置いた、クールな嵐だ。

5楽章8:25
早いテンポで静かに進行する。
第2楽章と同様、淡々とした演奏で、これほど「溢れる情感」を抑制しているフィナーレというのも珍しい気がする。それはそれで指揮者の意図なのだろうが…
ちょっと気になるのは、ここでは、第1楽章のような細部のクリヤーな響きや、これまで聞いたことにない音の動きを発見する面白さが、あまり感じられないことだ。
なんとなく、細部に彫啄を凝らすモチベーションが上がっていない気がする。
硬く固まった音が、情を排したまま、最後まで淡々と進行していくのである。
 
これは、「第五」とともにマゼールのメジャー・デビューとなった録音。
若干29歳の記録だ。
先に録音された「第五」は、よくメリハリの立った、やや力んだ感じの意欲的な演奏で、若き野心家の本領が発揮されている。
これに比べると「田園」は、ちょっと聴くと穏当、聴き耳を立てるといろいろとやっている、でも、首尾一貫、とまではいかない…そんな印象だ。
録音に5日間をかけているところにも、苦労が滲む。




偶然の悪戯なのだろう。
ベルリン・フィルはまったく同時期にアンドレ・クリュイタンスとも「田園」を録音している。
交響曲全集の一環で、仏パテのスタッフによる出張録音である。
日時は196032,3,9日。場所はグリューネヴァルト教会
なんと!マゼールのセッションの途中に割り込んで、録音を完成しているのである。

「田園」はクリュイタンスの得意曲で、
これは、モノラル盤の好評を受けての再録音だった。
別会社だから、マゼールは録音に立ち合ってはいないだろう。でも、このことを知らぬはずはなかった。
プレッシャーはあったのではないだろうか。
もしかしたらベテラン指揮者への遠慮も。
この録音に煮え切らなさや、解釈の不徹底が感じられるとしたら、案外そこにも遠因があるのでは…と愉しい想像が湧いてくる。


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コメント

コメント(2)
No title
こんにちは。ヘリオドールのLPジャケット・・・懐かしいですね。
私も何枚か持っています。
マゼールとクリュイタンスとのニアミス録音・・・面白い話ですね。
私の持っているマゼールの田園は、クリーブランドOのものですが、演奏としてはクリュイタンス/BPOの方を好みます。クリュイタンスのBPOとの全集は好みで同じ音源ですがLPもありますが、CDはダブリ買いしてます。

HIROちゃん

2017/03/17 URL 編集返信

No title
> HIROちゃんさん
クリュイタンスはBPOと1953年に録音した「田園」が縁で全集録音に発展したわけですから、それはもう、堂に入った、ゆとりと滋味に溢れた演奏です。芸風としては対照的な二人が同時期に録音したのですからオーケストラも大変だったことでしょう。
クリュイタンスがらみのニアミスは、実はもうひとつあります。「第9」を録音した際に、またしてもDGの、今度はフリッチャイが同曲で被ったのです。
コーラスも独唱者も違うのに、録音時期はほとんど重なる大変な事態でした。

yositaka

2017/03/17 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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