微笑みの中の思索 


彼らの犯罪
■樹村 みのり
■朝日コミックス
ISBN:9784022140180
■定価:630円(税込)
■2009年3月6日
■B6判並製 208ページ

樹村みのりの作品をまた読めるとは、なんという僥倖。
しかも前作『見送りのあとに』から、1年しか経っていない。彼女の本は、本当に、忘れた頃にしか出ないので、この間隔の短さはうれしい。

書店に入るたびに、彼女の名はないかと探すことが習慣となってもう三十年以上にも。出会えるのは数年に一度ながら、内容に裏切られたことは一度もない。今回も初出は90年代前半の作品ばかりで、十数年後の書籍化。彼女の場合、これは珍しくない。

朝日新聞出版の紹介文には、こうある。

いつの世にも罪を犯す人々がいる。彼らは何故、犯罪に走るのか? その裁判を見つめる人がいる。視線の先には犯人がいる。明らかになる事件の経緯。だが、心に浮かぶのは疑問とやりきれなさだった……。「女子高生コンクリート詰め殺人事件」を題材にした著者渾身の作品集!

彼女の作風を理解しているのか?
-いつの世にも罪を犯す人々がいる。彼らは何故…
「彼らの犯罪」の彼らは、いつの時代にもいる、犯罪を犯す人々なのか。
違うと思う。
-心に浮かぶのは疑問とやりきれなさ…
主語がない。こうした大雑把な文言くらい、樹村みのりに似つかわしくないものはない。

今回は、サッコ&ヴァンゼッティ事件を扱った『あざみの花』(1981年)を思わせる裁判シーンの多い作品。
淡々と描かれていく事実の凄惨さは、いつもながらの透明感のある画面の中でリアルさを増す。
容疑者を描く筆致すら独特の端正なタッチで、美しく描かれ、客観を貫こうとする凛とした姿勢を崩さない。
テーマに対する視点(女性の目からの論点)は確固としているのに、なお読者に判断を預けるように、投げられたボールのように、締めくくられる。

語り手、観察者となる女性たちは、決して多くを語らないが、細やかな所作、特に『口元の微笑み』と『手と指の表情』によって何か、言葉ではどうしても伝わらない内なるさざめきや苛立ち、発見を語る。言葉にならないものを語ろうとする。

彼女たちの求めているのは、読者に向ける対話の姿勢だ。
ここにこの事実があります。
あなたは、この事実をどう受け止めるのですか。
そしてなお、人間たちを愛して生きていくには、どうしたらよいのでしょう。

そのひたむきさが、作品に生命を、いつまでも古くならない力を与えている。

集団によって蹂躙され、命を奪われた少女。
両親に殺された少年。
マインドコントロールの渦中で心のバランスを失った女性。

本書で投げかけられた問いかけは、どれも重く切ない。それでも、なおどのような絶望的な事実に直面しても、人は「生きる知恵」を獲得するはずだ、という信念はゆらぐことがない。

人間性への信頼をあらわす『含蓄の微笑み』は、今回も健在。
次の出会いはいつになるか。やはり待ち続けたい。

版元である朝日新聞出版の姿勢には残念なものを感じる。
例えば、後輩に当たる、こうの文代さんの作品の見事なブックデザインなどをみると、もう少し「魅力的な本」にする工夫ができたのではないかと思う。前作『見送りのあとで』でも感じたことだが。
せめては、こうしたブログでの口コミで読者を広げられれば。

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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