読書感想文マニュアル、あり?なし? 配布する小学校も
朝日新聞デジタル 2016年9月2日11時33分
小学校の夏休みの宿題の定番となっている読書感想文。苦手意識を持つ子どもも多く、書き方を指南する本や塾の講座も目立つ。今夏、感想文の「書き方マニュアル」を配布した小学校があり、その詳細な内容をめぐってSNSで賛否両論の意見が飛び交った。感想文の指導はどうあるべきなのか。
「これに従順にならえば恐ろしく画一的な感想文がいっせいに提出されることでしょう。ここに一体どんな教育的効果が?」―衆院議員の堀内照文氏(43)はツイッターに、小学校で配布された読書感想文の書き方マニュアルの写真を投稿し、つぶやいた。
「読書感想文を書いてみよう」と題されたマニュアルはA4判1枚。童話「シンデレラ」を例に、
▽書き出しでは小説の一部を抜き出す
▽抜き出した部分について自分の考えを書く
▽本を選んだきっかけ、読み始めたときの感想を書く
▽自分の体験を書く
▽書き出しの部分に戻る
▽その本を読んで、自分がどう変わったかを書く
――などとある。さらに「その瞬間、私は自分がシンデレラであるかのような気分になった」といった感想文の例文も記載し、物語にのめり込んでいる感じで書くことを勧める
など、細かく指南している。
投稿への反響は大きかった。リツイートは1万回以上にのぼり、「文章の技量が本当に鍛えられるのか?」などマニュアルを疑問視する意見の一方、賛成の声も少なくなかった。「『自由に書けばよい』と丸投げされても、小学生は困惑しかしない。これくらいやって当たり前」などだ。
「配布した先生のやる気をそぐ」との指摘もあり、堀内氏は3日後に投稿を削除。自身のホームページで投稿の趣旨について、「先生批判ではなく、教育のあり方一般としての疑問だった」と説明した。
マニュアルを配ったのは関西地方の公立小学校。学校によると、担任が感想文の書き方を指南する文面をネットで見つけ、「わかりやすいので参考に」と、内容を転載した紙をクラスで配ったという。教頭は「書き方がわからない子どももいる。形から入ることも必要ではないか」と話した。
感想文が苦手な子は多いようだ。ベネッセ教育情報サイトが昨年8~9月、小学生の保護者に「子どもが一番てこずっているように見えた夏休みの宿題」を尋ねると、回答者132人のうち、読書感想文と答えた人は最多の約34%だった。「(子どもが)何を書いたらよいか理解していない」との声が目立ったという。
■「どれだけ本音で書けるか」
マニュアル配布の是非では、専門家の意見も割れる。
横浜市で小中高生らを対象にした作文教室を30年あまり続けてきた中根克明さん(64)は「書き方を示されて、ほっとする子や親の方が多いだろう。そもそも感想文の書き方を十分指導していないのに宿題に出す学校が多い」と指摘する。「毎年子どもたちは苦労してきたので、書き方を指定したことは一つの前進だ」
「読書感想文がスラスラ書ける本」などの著書がある上條晴夫・東北福祉大学教授(58)も「読書感想文は読書体験をもとに論理的思考を鍛える作文活動なので、この程度の型は指導として示されていい」と感じたという。「問題なのは、論理的な作文の指導ができる教師の育成が、大学でも学校の研修でも十分でないことだ」と指摘する。
元小学校教諭で児童文学作家の野村一秋さん(61)はマニュアルに懐疑的だ。「何も考えさせず、パズルをはめていくだけのような指導をすれば、子どもは一つの書き方は覚えるかもしれないが、楽しいと思うだろうか」
十数年前まで勤務していた小学校では、読書感想文の提出を義務ではなく任意にした。義務にすると、子どもが本嫌いになりかねないと思ったからだ。目的はあくまでも本を読んでもらうこと。気に入った本に出会えたら、感想文を書けばいい。そんなやり方で、児童の3分の1が感想文を提出してきたという。その中からコンクールの最優秀作が出たこともある。
「重要なのは書き方ではなく、どれだけ本音で書けるか。まずは、1学期の間に自分に合った本の選び方を指導することから始めるべきではないか」(杉山麻里子)
「訓練として有益」「形整うだけ」読書感想文マニュアル論争、読者の声は
朝日新聞デジタル 2016年9月23日05時00分
「マニュアル本に救われた」「課題を表面的に処理してしまうなどの弊害がある」……。今月2日付の教育面「読書感想文 マニュアル論争/細かい指南に賛否」の記事に対し、読者から多くの反響をいただきました。感想文の書き方を示したマニュアルを子どもたちに渡すのは是か非か。主な声を紹介します。
2日付の記事では、今年夏、童話「シンデレラ」を例に書き方を細かく指南するマニュアルをある小学校が配ったところ、SNSで賛否の意見が飛び交う議論になったことを紹介した。記事への感想や意見の投書でも、賛否は分かれた。
名古屋市内の中学校の国語教師、伊東達矢さん(52)は、マニュアルの活用を提案する。生徒が提出してきた夏休みの宿題の読書感想文のなかには、書きなぐったような文字が連なっているなど、嫌々書かされたような印象を受けるものもあった。任意提出にしたら、ほとんどの生徒が出さなくなると考える。「ならばいっそ、マニュアルを整備し、制限された状況で伝えるべきことを文章化する訓練として感想文をとらえた方が、生徒たちにとって有益なのでは」
三重県鈴鹿市で小中学生対象の国語教室を開いている川戸恵子さん(53)は、多くの子どもが感想文に苦手意識を持っていると感じる。自身も小学生の頃、読書は大好きだったのに感想文の書き方がわからず、苦しんだ。そんな経験もあって、感想文の「型」を教えるのは、安心して書くために必要だと思う。
「型に沿って書けば、形の上では画一的に感じられるかもしれないが、子どもが本を読み、自分の力で書き上げたなら、まずそれを評価していくことが大切。それを出発点にして、書き方の工夫をしていけばいい」と指摘する。
「マニュアル本は使い方次第でとても有効」との意見を寄せたのは、神奈川県の主婦(38)だ。今年の夏休み、小学1年の長男に出された宿題の読書感想文の提出は任意だったが、苦手なひらがなを学ばせるために取り組ませた。マニュアル本を参考にしながら書かせたところ、感想文コンクールの学校代表に選ばれた。長男は生き生きとした顔を見せたという。
■課すこと自体に反対も
一方、マニュアルに疑問を投げかける声も根強い。
札幌市の元大学教授、伊藤進さん(71)は、マニュアルを与えると、「課題を表面的に処理し、形だけ整った文書を書く習慣をつくってしまう弊害がある」という意見だ。大学でリポートなどの書き方を教える授業を担当した。大半の学生は調べたり考えたりしたことを簡潔、明瞭に書くスキルを身につけないまま入学してきていたという。「小学校から高校まで、書くことをもっと系統的に学ばせる必要があると思う」
大津市の元小学校長、安田直次さん(82)は「目先の要求に負けてマニュアル化して済ませようとする現代教育に通底する問題ではないか」と感じた。感想文のマニュアルは必要ないが、子どもたちに「書き方」を教えることは大切だと思う。
現役の教員時代、感想文を書く際の頭の整理の仕方を考えた。(1)読んだ本について、「〇〇と書いてあった」(A)と「〇〇と私は思った」(B)の二つに分けて書き出す(2)Bの中から大事だと考えるものを三つ選び、その根拠となるAを探す(3)BとAを組み合わせて文章を構成する――というものだ。様々な文章を書くのに応用できると考えている。
児童生徒に感想文を課すこと自体に反対という意見もあった。千葉県鴨川市の主婦、石川真理さん(49)は本を読み終えた後の余韻を味わうのが楽しいのに、感想文で結論を急がせる必要があるのか疑問だという。
どうしても感想文を書かせたいなら、たとえば金子みすゞの詩を一つ指定し、「他人と同じにならないように感想文を書いてくるように」と指示してみては、と提案する。違う感想文を読むことで、「『私はこう思ったけど、○○さんはあんな考え方をするんだなあ』と新たな発見があるはず。それこそ金子みすゞの詩にあるように、『みんな違ってみんないい』教育だと考える」と結んだ。(杉山麻里子)
引用おわり。
ネコパパ、このマニュアルを見て一瞬
「おっ、いいな!使えるぞ」
と思ってしまいました。
ごく一般の国語教員で、ここまですっきりと感想文のフォーマットを提示できる人がどれだけいるか…自分は正直、できていなかったからです。
読むことは自由でありたい。
一方、書く技術を身につけることも重要です。
札幌市の元大学教授、伊藤進さんも大津市の元小学校長、安田直次さんも、「マニュアルは画一化につながり反対だが書き方を教えることは大事と話されている。
全く異論はありません。
でも、そうおっしゃっている安田さんの書き方指導、こうして短い記事にしてしまうと、限りなくマニュアルに近くなってくるのではありませんか。
マニュアル自体にはいいも悪いもないと思います。子どもにわかりやすく、使いやすいマニュアルがあるのなら、ネコパパは躊躇なく使いたい。
問題は、それを示す教師の背後に、豊かなことばの沃野が広がっているかどうか…だという気がするのです。
マニュアルには、肝心の「中身」は示されていないのですから。
コメント
ちなみの私,小6の読書感想文で漫画「マカロニほうれん荘」の感想文を書いたら,先生が読んだことがなくて,わたしが先生に本を貸して,先生も読破。先生は「笑いすぎて顎が外れそうになった」とのことで結構良い点をくれた記憶があります。
そんなほのぼのした時代は終わっちゃったんでしょうかね。
jazzclub
2016/09/23 URL 編集返信私は(あらすじなんて感想じゃないだろう)と思っていました。
不二家 憩希
2016/09/23 URL 編集返信感想文のために本を読む・・・となるので
読書がつまらないコトになってしまうのだと。
私、子供たちに1行感想文というのを書いてもらっています。
「なるべく他の人が使わない言葉を使ってみましょう」
「優劣の評価はしないので思い通りに書いてください」
「読んだ本に対する反対意見でもいいです」
と事前に言います。
ナカナカ、面白い感想が出てきますよ(笑)
ユキ
2016/09/23 URL 編集返信geezenstac
2016/09/23 URL 編集返信マニュアル通りに書く生徒が増えたら・・とのご心配ですが、このマニュアルでそれができる生徒は読解力も作文力もある子だと思いますので、案外心配ないかもしれません。
yositaka
2016/09/23 URL 編集返信yositaka
2016/09/23 URL 編集返信読むきっかけが「感想文を書かなきゃいけないからしょうがない」というのは本末転倒ではあるんですが、なにかきっかけがないと全く読まない子どももいます。
望ましいルートからしょうもないルートまで、本に通じる道はいろいろあってもいいという気もするのです。
一行感想、なかなかいいですね。図書館のポップにも使えそうです
yositaka
2016/09/23 URL 編集返信何であれ、モチベーションを高めた時の子どもは凄いです。「おっ、いいな!使えるぞ」と思ったのは、これには教師も生徒もこれでモチベーションを高められる可能性かあると感じたからです。抵抗感が減ることで本の中の「自分では体験出来ない世界」をいっそう味わえる…そんな子どももきっといると思います。
yositaka
2016/09/23 URL 編集返信読書感想文はいくつも書きましたが、担任教師の趣向を考えて、まず本選び、内容もウケ狙いを外さなければ、だいたい賞状くらいはもらえることを覚えます。
まあ、そうしたなかで、子供は好きな本と書き方を見つけていくものではないでしょうか。
今の私企業が就職活動時に要求している応募シートも、この手のマニュアルどおり書かれたものばかりで、真面目に読む気はすぐに無くなります。
たまに個性的に書かれた文章は斜め読みしますが、通り一遍の志望動機の文章を次々見ることは、まずありません。
なんとなく、この手の読書感想文だらけになったら、大量に読まされる先生が気の毒になります。
gustav_xxx_2003
2016/09/23 URL 編集返信読書を薦める人に関しておもしろいと思うのは、音楽好きの方であれば、例えば「ベートーヴェンのエロイカを聴いて感想文を書け」という課題を与えられたら、「自分は好きだからよいが、そうでない人まで無理して聴かなくても」と思いませんか?「いや、きっかけを与えないと聴かないでしょ」「絶対、何か感じることあるよ!」とか言って、興味ない人に聴かせようとするでしょうか
Loree
2016/09/24 URL 編集返信就職進学の応募の文章となるとちょっと話は別で、もともとマニュアル指導が行われている分野ですから…読むほうはうんざりかもしれませんね。
yositaka
2016/09/24 URL 編集返信「きっかけを与えないと」なんて余計なお世話、お節介だというのは私もそう思います。でも学校教育というのは基本それですから。子供には迷惑な部分も多いでしょうが…
yositaka
2016/09/24 URL 編集返信そんな子は「マカロニほうれん荘」のような発禁本?も読んでいますから手強いのですが、原石だと思います。音楽の授業での課題曲もそうです。
わたしが作者だったら、作品を自由に味わってほしいので、課題作品に選ばれてもうれしくないなぁ。 それにつけても印税のほしさよ。
木ノ下淳一
2016/09/24 URL 編集返信しょーがないので、あたしが感想のポイントの20項目ほどを提供し、(読んだきっかけは?とか、自分だったらどう思うか、とか)全て書き出したものを項目別にハサミでチョキチョキして文章がつながるようにノリで張り付け、作文用紙に清書させてました(笑)
ひどいやり方ですが、ふたりとも学年代表に選ばれていた‥
こんなのセンセにバレたら怒られちゃうよね~(^_^;)ハハハ‥
うっちー
2016/09/24 URL 編集返信「わたしが作者だったら、作品を自由に味わってほしいので、課題作品に選ばれてもうれしくないなぁ。 それにつけても印税のほしさよ」…多くの作家さんも同感だと思います。
記事に出てくる野村一秋さんは素晴らしく面白い児童文学「天小森教授シリーズ」で有名な方ですが、ずっと教員との二足の草鞋生活でした。
課題図書に選ばれると印刷数の桁が一つ増えるのです。
図書館の購入だけで生活可能なアメリカ、児童書の書き手には国から手当が支給されるドイツとは違い、感想文コンクールが出版社や作家の生活のカギを握る日本の状況は、とても貧しい。
yositaka
2016/09/25 URL 編集返信私も国語教師なのに作文苦手な二人の子供のフォローには苦心惨澹なものがありました。うっちーさんのはナイスフォローだと思います。お子様の実力は自分自身のものですよ。そんな親を持ったこと自体が、そもそも実力の一部です。
yositaka
2016/09/25 URL 編集返信シュレーゲル雨蛙
2016/09/29 URL 編集返信読んだ本の意味はのちのちになってわかってくる、それは確かに思います。だから絵本の読み聞かせは「読みっぱなし」が基本だと思うのですが、「指導意識」があると、何かせずにはいられないのでしょう。大人の悪い癖です。真に語りの力がある人ほど、余計なことは言わないものです。
yositaka
2016/09/30 URL 編集返信