円盤帳より③カール・ベームとVPOのNHKライヴ

たった今生まれてくる 1984.7.8
 
ベーム・ウィーン・フィル NHKライヴ 1975





ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮 カール・ベーム
日グラモフォン 国内盤LP

 
316:NHKホール
君が代(日本国歌)
Land der Berge, Land am Strome (オーストリア国歌)
ベートーヴェン/交響曲第4番
ベートーヴェン/交響曲第7番
JシュトラウスⅡ/美しく青きドナウ(アンコール)
 
317:NHKホール
ベートーヴェン/レオノーレ第3番
ストラヴィンスキー/火の鳥、組曲
ブラームス/交響曲第1番
JシュトラウスⅡ/美しく青きドナウ(アンコール)
 
319:NHKホール
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
シューベルト/交響曲第8番「グレイト」
ワーグナー/「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(アンコール) 
 
322:NHKホール
ベートーヴェン/レオノーレ第3番
ストラヴィンスキー/火の鳥、組曲
ブラームス/交響曲第1番
ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲(アンコール)
  
325:NHKホール
モーツァルト/交響曲第41番
JシュトラウスⅡ/南国のばら
JシュトラウスⅡ/アンネン・ポルカ
JシュトラウスⅡ/皇帝円舞曲
JシュトラウスⅡ/常動曲
JシュトラウスⅡ&ヨゼフ・シュトラウス/ピッツィカート・ポルカ
JシュトラウスⅡ/こうもり、序曲
JシュトラウスⅡ/トリッチ・トラッチ・ポルカ(アンコール)
ワーグナー/ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲(アンコール) 

 
私の浪人時代の終わり、1975316日~25日。
カール・ベームとウィーン・フィルが来日した。連日放送されたFM生中継とTV放送をかじりつくように聴いた。
そして4月。地元大学に入学した私は、必修体育のバドミントンの時間、ふとした会話がきっかけで同級生のひとりと音楽の話になり、先日のウィーン・フィル演奏会のことをまくし立てた。これが悪友sige君との10年(当時)の付き合いの初めであった。初対面の人物に一方的に話をした自分に呆れるが、そのくらい感激して、誰かに話したかったのだろう。
それが今度レコードとして出た。昨年(1983年)のことで、ベームは81年に死んでいるからその2年後ということになる。4枚組で高価なセットが、聞くところでは相当な売れ行きで、当時はどこのレコード店でもお目にかからなかった。つまり、私と同じ感激をした人は少なくなかったのだろう。
今、針を落とすと、あの時聴いた音が少しの間違いもなく耳によみがえってくる。
本当にあれから10年も経ち、私は教員として社会に出て、カール・ベームは2年も前に死んでしまったのか。
sige君は高校教師となり、結婚もした。すっかり変わった。
しかしこの音楽は、たった今生まれてくるように今も生々しい。時を越えて迫ってくる。人の時間と人の作り出したものの時間の流れは違うのか。そうなら、この音楽は人のはるかさ、人の悲しみを宿しているようにも思える。
 
 
「感激」「はるかさ」「悲しみ」などと
恥ずかしい修飾語が頻出する駄文だ。
でも、盟友sige君と出会ったエピソードが記されているのは、個人的に懐かしい。
彼も高校生からFM放送を聴き込み、エアチェックすることに余念がなかった。「話せる仲間」であることは、ほんの一言二言でわかるもの。
 
「あの時聴いた音が少しの間違いもなく耳によみがえってくる」の文言は、
実は嘘である。
あのLPの音は、確かにFM放送の音源に間違いはなかったが、放送時とは違い、感触が軟らかく、その分芯のない響きに変わっていた。
グラモフォン風に音をアレンジした感じ。
臨場感は後退しているという印象だった。

75年の生中継で聴いた「感激」は、たしかに大きかった。
自室のビクターモジュラーステレオの前で息をひそめていたネコパパの耳には、最初の一曲、ベートーヴェンの交響曲第4番から、ごつごつと足を踏み鳴らすような「指揮者の音楽」が聞こえてきたのだ。
一人の指揮者の解釈がオーケストラの隅々まで浸透している手ごたえ。
それを漠然とではなく、音として聴き取った。そんな、ごく個人的な「感激」だった。
 
演奏の完成度や燃焼度は、曲や回による温度差があり、すべてよかったわけではない。
「未完成」交響曲、「レオノーレ」序曲第3番、皇帝円舞曲、それに317日のブラームスの交響曲第1番が良く、あとは、どちらかといえばベームの存在感を聴く演奏…初聴きで受けたこの印象は、LP購入時も、そして今聞き直しても変わらない。
17日のブラームスについては、ベーム自身もテレビのインタビューで「会心の演奏だった」とコメントしていた。つまり、すべての演奏がベストコンディションではなかった、ということだ。
それでも、ネコパパはエアチェックも聴き、幾分音の感じの変わったレコードも聴き、そのカセットコピーも聴いた。CD時代になって出たコンプリートボックスも入手して聴いた。
 
この箱物が「相当な売れ行き」だったのは、事実らしい。
平林直哉の著書にも、店頭に並ぶ前に予約完売した珍事だったと書かれている。
とすると、これを私は予約したのか。当時なじみだった豊田市内のレコード店が個人的に発注していた品を買ったような気もするが、思い出せない。

 
データをみると、演奏会のなかで収録がないのは以下の2日分。
 
320:NHKホール
ベートーヴェン/交響曲第4番
ベートーヴェン/交響曲第7番
 
323:NHKホール
シューベルト/交響曲第7番「未完成」
シューベルト/交響曲第8番「グレイト」
 
この分も、生放送はされていたのだろうか、記憶はないが、音源が発掘される可能性は残っている。
もし出たら、ネコパパはきっと即買いするだろう。
何しろこれは「クラシックは演奏が命」ということを教えてくれた恩人のような録音なのである。


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コメント

コメント(17)
No title
1975年というと、ちょうど私が働き始めた頃にあたります。
日付からすると、年度末の繁忙期にあたりますから、わずかに耳にした記憶は再放送であったのかもしれません。
いまと違ってサービス残業は当たり前、その日の内に独身寮に帰り着けば今日は早かったという生活でありましたので、ゆっくり音楽を楽しめる情況ではありませんでした。
このコンサートに行けた方は、オイル・ショックで大変な時期であったということを考えると、学生を除き、よほど恵まれた労働環境であったろうなぁと思えてしまいます。

gustav_xxx_2003

2016/09/07 URL 編集返信

No title
この年、就職して2年目・・NHKのFMで良く聴きました。このとき録音したカセットテープがまだ残っています。聴いていないので音も劣化しているでしょうね。
その後、このLPのセットを購入しましたが、購入したのは写真の上の4枚組のセットだけで9200円でした。
この年の来日演奏で感激したのはブラームスの第1番でした。

HIROちゃん

2016/09/07 URL 編集返信

No title
グスタフさん、私も就職後は全く余裕のない生活に突入しましたので、世代的にラッキーだったかもしれません。
この時のコンサートは申し込み抽選方式で、日時やプログラムは選べなかったそうです。招待されなかった音楽評論家は聴くのが大変だったらしく、宇野功芳氏などは不満を表明していました。
そのチケット代は不明ですが、このやり方なら比較的安く設定したのではないでしょうか。

yositaka

2016/09/07 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、私も買ったのは1巻だけで、2巻はずっとのちに中古入手しました。9200円は高かったですね。一枚2300円ですからね。
しかもブラームスは22日の分が収録されていました。この曲は17日の方がずっと快調で、ベームが自賛したのも17日の演奏でした。これでどっと抗議の声が上がり、当初発売予定のなかった続編が翌84年に発売されたのです。

yositaka

2016/09/07 URL 編集返信

No title
1975年3月、私は前年生まれですがまだ0歳でした。。。
このセットはCD化された際に(学生だったので予算の都合で)すぐ買わなかったので、後になってだいぶ苦労して探して、結局、何度目かの転勤先の街の図書館で見つけてようやく手に取ったことを思い出します。初出がいつだったのかは意識したことがなかったですが、8年もたってから発売されたとは意外です。

Loree

2016/09/07 URL 編集返信

No title
ロレーさんはお若いのですねえ。この録音はおそらく日本だけの発売で、LPは一回、CDでは二回限定発売されただけですので、入手は難しいかもしれません。ベームは77年、80年と来日していますので、8年後の発売も当時としてはリアル感があったと思います。ベームは死後急速に人気が衰えたという人もいますが、死後2年の段階でも、揺るぎのない人気を保ち、その後も「凋落」の印象はありません。ベームは紳士でも人格者でもない「うるさいクソジジイ」だったので、団員や関係者の評判は良いとはいえなかったのは事実ですが、リスナーとしては音楽自体の価値を評価したいですね。

yositaka

2016/09/08 URL 編集返信

No title
これは生で聴いた訳ではありませんが思い出に残っている演奏会です
特に凄かったのがテレビで聴いたブラームスの1番
キュッヒルが弦の一部を切らしながら凄い形相で弾いている姿が脳裏にやきついています。
ただウィーン・フィルがライブで聴けるということでオープンデッキで放送されたものはすべて録音しましたが音は期待通りのものではありませんでした。もちろん当時の再生装置が十全でなかったせいもありますが、NHKホールの音響の悪さがこれでクローズアップされたようです
LPセットは両方を買い求めましたが再聴という本来の目的よりも記念としての意味で買いました

蛇足ですが昔のNHKはクラッシックファンにはありがたい存在でした
クライバーやアバドのスカラ座公演も生中継してくれました
ベームの「フィガロの結婚」も。。。
昔は良かったなんて言ったらおしまいだそうですが
そう言いたくもなってしまいます

パスピエ

2016/09/09 URL 編集返信

No title
パスピエさん、オープンデッキの収録は多くの人がやっていたと思いますし、ビデオ収録をした視聴者もいて、現在発売されているDVDは視聴者のエアチェック映像も含まれています。あの貴重な映像を、3月17日のブラームスの回を除いて、NHKは消去してしまったのです。
昔の放送といえば、1970年のセルとクリ―ヴランドのシベリウスとか、1973年のムラヴィンスキーとレニングラード・フィルとか、NHKこけら落としのカラヤンとベルノン・フィルとか、NHKは貴重な映像を多く放送しました。不思議なのはそれらの録音だけは残っているのに、映像は全く出てこないことです。ベームと同じくこれらを消去したとすれば、勿体ない…というより暴挙としか言いようがありません。

ところで…クライバー指揮のスカラ座公演も放送されたとは知りませんでした。曲は「オテロ」「ボエーム」で、放送は1981年…私が新米教師として悪戦苦闘していたころですね。
一人暮らしのアパートにはTVもなく、相当な番組を見落としているはずです。

yositaka

2016/09/09 URL 編集返信

No title
再コメ失礼します
スカラ座公演はご指摘の通り1981年です
アバド指揮で「セビリアの理髪師」「シモン・ボッカネグラ」
クライバー指揮で「ボエーム」「オテロ」だったと記憶しています
「オテロ」は記憶にないのですが他はテレビで放映されたはずですが
これも記憶です
なかでも「ボエーム」の初日である9月15日の公演がテレビで生中継され、それをビデオに録画すべく、当時はまだ高価で持っている人は限られてていましたので、友人からビデオデッキを借りてきて接続に大騒ぎしたのも今となっては楽しい思い出です。
なお私は9月17日の公演に出かけました
思い出に残っているのは、うっとりするようなクライバーの指揮姿
それに1幕から2幕への場面転換の見事さとその速さ(休憩なしで5分間位そのまま)
幕が上がった時、ワァーという歓声と拍手が起きたことです

パスピエ

2016/09/09 URL 編集返信

No title
1975年というと、みっちは地方勤務で、クラシック鑑賞的には暗黒の時代でありました。(笑)

ところで、このYoutube音源、1975年3月17日NHKホールの「ブラームス1番」ですが、ステレオですね。日本のTVのステレオ放送は1978年からだそうなので、これはTV中継のビデオそのものではないと思います。
「NHKクラシカルシリーズ」のDVDには、ベーム/ウィーン・フィルの1975年3月16,17,19日の公演記録があります。これが元なんでしょうか。
当時からFMはもちろんステレオ収録ですから、それを使ったんでしょうか。
あと、「カラヤン生誕100周年ボックス」というセットには、カラヤン/ベルリンフィルの1973年NHKホールこけら落とし公演のドレス・リハーサル(モノーラル)が入っています。これでNHKの手持ち映像は全部という話でしたから、本公演のビデオは残っていないのでしょう。

みっち

2016/09/09 URL 編集返信

No title
> yositakaさん
そうなんです。LPレコードは22日なんです。
私が録音したカセットテープ(テレビから録音したモノラルでした)には17日と書いてあって、LPのセットを購入した時に聴いてみると迫力が半減していたことに当時、がっかりしました。17日の演奏は最高でした。

HIROちゃん

2016/09/09 URL 編集返信

No title
みっちさん、このブラームスは1999年2月に「20世紀の名演奏」というシリーズの一つとしてETVで放送されました。その音声はご推察の通り、FM用のステレオ音源がシンクロ収録されたのです。
この映像はそれ以降も再放送され、大変な評判となり、視聴者から他の日の録画も放送してほしいとの要望が殺到しました。それに対するNHKの返答は「映像は17日の分が残されたすべて」というもので、これには愕然としたものです。
しかし2006年になってNHKは、要望に応えたのか、17日以外の映像も含め5曲分の映像を収録したDVDを発売します。マスターテープの存在する17日分以外は、おそらく視聴者所蔵のエアチェック映像を借用した、走査線の見えるもので、これを見たときは「やはり消去されていたか」と、本当にがっかりしました。音声はステレオ音源をかぶせているので、聞き苦しさはないのですが。
以上のいきさつを見ても、「ベームの死後人気は急激に衰退した」という説は主観的なもので、事実とは異なっていることが推察できると思います。

yositaka

2016/09/09 URL 編集返信

No title
(つづき)1973年のカラヤンBPOのテレビ放送は画質が美しく、変な演出もなく、演奏もドヴォルザークの8番、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死など、カラヤンをあまり好まない私もさすがにいい演奏と思いましたし、カラヤン映像のベストではないかと思いました。
無表情を装うことが多いカラヤンが、ドヴォ8の終わりで満面の笑みを浮かべるのがアップで映し出されたのは実に感動的で、今もありありと思い出せます。こんな映像も簡単に処分できるNHKの意識が、私にはどうにも理解できません。

yositaka

2016/09/09 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、生中継で聞いてさえ、同じ演目が別の日にはずいぶん変化することが実感できました。
演奏というものは生き物で、二度と同じ演奏はできない。レコード録音とライヴが違うのは当たり前のことなんだ、というまさに当たり前のことを痛感したのもこの一連の演奏会が教えてくれたことでした。
それにしてもベスト盤を作るつもりの制作者が、なぜ22日分をわざわざ選択したのか、理解に苦しむところではあります。

yositaka

2016/09/09 URL 編集返信

No title
パスピエさん、クライバーの「ラ・ボエーム」をお聞きになられたとは…まさに夢の一夜だったことでしょう。「ボエーム」は、イタリアオペラの苦手な私が、ほとんど唯一愛聴する作品ですので、なおさら羨ましさが募ります。

yositaka

2016/09/09 URL 編集返信

No title
1981年のスカラ座来日公演は、直前までいわゆるDINKSでいまとは違って余裕がありましたので、カルロスの「オテロ」と「ボエーム」を見てきました。(ついでにアバドのヴェルディ「レクィエム」)
初めて経験する本格的なイタリア・オペラには仰天しました。
これで味をしめて86年のウィーン国立歌劇場公演でカルロスの「トリスタン」に行ったら、見事すっぽかされました…

カラヤンの来日公演映像は、ドイツの厳格な著作権管理により、放送後はNHKの放送テープがすべて回収されたそうで、決して廃棄したわけではありません。

ビジネスというのは冷酷なもので、売れないとわかっているものは販売しません。
カラヤン、バーンスタインは言うに及ばず、ショルティ、フリッチャイ等々に至るまで網羅的で大規模なBOXが発売されているのに、ベームのものはいまだに出てきていませんねぇ。
その辺がレコード会社の経営判断なのでしょう。
もし大規模なベームBOXの企画を立てるとしたら、残念ながら日本やヨーロッパではなく韓国ユニバーサルでしょうかね。

gustav_xxx_2003

2016/09/10 URL 編集返信

No title
いやあ、グスタフさんもクライバーのスカラ座ライヴを体験されておられたとは!地方の住人としては羨望の思いあるのみです。
これなども、映像が残されていればリリースを期待したいものです。

実は…1973年のカラヤンの映像回収の件は聞いたことがあります。それを聞いて、私は「簡単に処分」したんだな、と思ったのです。
欧米の放送局や研究機関では、公表を前提としないアーカイヴとして数多くの音源を保存しています。それが貴重な記録の散逸を防ぎ、なかには後日著作権をクリアーして日の目を見るものもあります。
日本でも、録音が認められなかったり、消去を命じられた音源が実は保管され、発売されたケースがいくつかあります。1973年のカラヤンの場合も、すべて回収されたはず映像が一部残され、DVD発売にこぎつけたのですから、本番のコピーを保存することは可能だったと思うのです。
映像発売にあたって、NHKはドイツの関係者に本番の映像について問い合わせたと思われますが、結局それは収録されていません。ということは、やはり廃棄されたのでは…

yositaka

2016/09/10 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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