ザンデルリング/ドレスデンのブラームス交響曲全集

ブラームス 交響曲全集

①第1番 悲劇的序曲
②第2番 第3
③第4番 ハイドンの主題による変奏曲




クルト・ザンデルリング指揮
シュターツカペレ・ドレスデン
1971,72年録音 DENON/タワーレコード SACDハイブリッド

 
これは、数多いブラームス交響曲全集の中でも、日本では特に高く評価されている盤ではないだろうか。
発売のタイミングもよかった。
録音の翌年の1973年、同コンビが来日公演を行ったのである。この公演はNHKFMFM愛知で放送され、私もこれを聴いた。とりわけブラームス、交響曲第1番の強い印象は今も忘れられない。
オーケストラの魅力には「音色」というものがある。
そのことに、初めて気付かされたのである。
 
今、この全集をあらためて聴いてみると、その「音色の魅力」がどのように作り出されていたのかを聴き取ることができる。
ヴァイオリンの音量をセーブし、ヴィオラとチェロを強めに響かせることで「艶消し」の音色を作り出していること
木管は抑え目でよく溶け合っている一方、ホルンが強くふくよかな音を響かせること。
トゥッティでの、心持ちざらっとした質感が心地よい「手作り感」を生み出していること…

今回のハイブリット盤は、2016年にドイツ・オイロディスク保有のマスターテープを使用して製作されたという。
当時のLPは格別な名録音とは思わず、むしろ楽音が残響に埋没して隔靴掻痒の印象もあったが、当盤は鮮度と音のエネルギー感を増していて、新しい気分で聴くことができた。
嬉しいことである。

この音色がオーケストラのものか、それとも指揮者の指示の賜物か、そこが悩みの種になるのだが、
この頃のドレスデン・シュターツカペレ(国立管弦楽団)が、ウィーン・フィルと同様に誇るべき「伝統の音色」をもっていたことは、多くの音盤からも確かに感じられる。
その一方で、ザンデルリンクのブラームス解釈がこの音色と強い親和力をもっていたことも確かだろう。
 
音色の特色は、指揮者の設定する遅めのテンポによって、さらに強調されている。
1番の終楽章や、第2番の第1楽章展開部のように、通常、テンポを速めてドラマを作るような部分も、彼は敢えて遅いテンポで押し通す。それが、地の底から湧いてくるような力感のある音楽を生み出していく。
かなり中低域寄りの音のバランスも「重厚な感じ」を生み出す要因になっている。

ただし、重厚ではあっても無骨ではない。そこが面白いところで、フレーズの奏で方は意外に流麗なのだ。レガート気味に感じる箇所も多い。
始まりや終わりにアクセントをつけたり、テヌートとスタッカートの対比を際立たせたりといった共感音圧を高めるやり方を、彼らはしない。
そこは私の好みとはちょっと違うのだが、その分、リズムは強靭だ。
とくにピチカートの打ち込みによって強調される「ビート感」は聴き手を揺さぶるものがある。

そんなザンデルリングの演奏スタイルがもっとも似合っているのは、第1番と、第4番だ。
第1番は上記の特徴がことごとく決まる。
ブラームスが長年こねくり回して出来上がった大作、という風情が見えすぎて、私はあまりこの曲が好きではない。それでも、これだけやりつくしていれば感服するほかはない。
4番は、もっといい。
録音時、ザンデルリングの気分は高揚していたのか、他の三曲にない激しさと勢いが感じられるからだ。人生の夕映えのような曲想の中で、唯一どこか違和感を感じる第3楽章さえも、実の詰まった音楽として聞かせてくれる。
数多い同曲演奏の中でも「空前の出来」と呼んでいいかも…



一方、牧歌的な第2番と、室内楽的な第3番は、彼らのスタイルがやや重々しすぎる感じもしなくはない。
もちろん完成度も密度もただ事ではないが、それでも、とくに第2番では、曇り空ばかりではなく、「晴れ間」の音楽も聴きたくなる…


余計ごとながら、今回のCDジャケットは最初に発売された日本盤と同じ、モノクロのブラームス肖像がデザインされている。
長らく使用されていたカラーの肖像画の方は、この全集を東独エテルナと共同制作した西独オイロディスクのオリジナルで、モノクロの方が東独エテルナ盤のオリジナルとのことだ。
そこで、ふと思ったのだが…
当録音のオリジナルマスターは現在も東独エテルナ(その後継権利者)にあり、今回使用したオイロディスク保有のマスターというのは、そのコピーテープではないか。

そうなると…真に高音質の音源は、まだどこかに眠っているかも?
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コメント

コメント(15)
No title
4番のジャケットはモスグリーンだったように記憶しています。

高校生の頃、レコードが擦り切れるほど聴きました。
SKDの大ファンになった思い出のアルバムです。

CDは所有していますが、SACDは所有していません。

躊躇していますが、だんだん欲しくなりました^_^

クラちゃん

2016/08/24 URL 編集返信

No title
クラちゃんさん、ようこそ。
初期の盤はあまり長くは市場に出ていなかったので忘れていましたが、曲ごとに色を変えていたんですね。
当時感銘は受けたものの、当時からブラームスの交響曲のレコードをいくつも欲しいとは思っていなかったので、なかなか入手しないうちに2回目のベルリン交響楽団との全集が出て、こちらを即買い。ドレスデン盤は中古LPで揃えてはいたものの、本気で聴いたのは今回が最初かもしれません。
ザンデルリングのファンなのに、ブラームスは苦手と言う私の屈折ぶりが出てしまいました。

yositaka

2016/08/24 URL 編集返信

No title
SACDハイブリッド盤ではありませんが普通のCD盤のBOXで全曲を持っています。
音は良いのかもしれませんが、SACDまで購入するつもりはありません。
第1番、第4番がいいですね。。。。

HIROちゃん

2016/08/24 URL 編集返信

No title
HIROちゃんさん、これだけ「濃い」演奏だと、いかに内容がよくても繰り返し聴くのは難儀です。ザンデルリングの指揮は、スケール感のある音楽に適していることがよくわかりました。
それにしてもザンデルリング、この録音時まだ59歳でした。彼の音盤は50年代のものも60年代のものも、同様な微速前進の巨匠的スタイルで一貫しています。
いったい、いつどこでこのスタイルを身につけたのか、ずっと気になっています。

yositaka

2016/08/24 URL 編集返信

No title
ご紹介のザンデルリンク盤ブラームスは評判が高いですね。
どうもザンデルリンクはマーラーの交響曲第9番を聞いてがっかりしたものですから、いまひとつ踏み出すことができないままでいます。
私は高校生の頃にブラームスにどっぷりとハマり込んで以来、大好物ではあるんですがねぇ…

gustav_xxx_2003

2016/08/24 URL 編集返信

No title
グスタフさん、ザンデルリングの芸風は、細部を緻密に描くよりも、曲を大掴みでとらえていくものなので、マーラーよりもブラームスに似合っているのかもしれません。
私は何より彼のショスタコーヴィチの8番、15番、それにブルックナーの3番、7番などに魅了され、音盤が気になり始めた口です。
晩年はバイエルン放送交響楽団を精力的に指揮しましたが、録音嫌いでそのころのレコーディングはほとんどありません。ヴァントのように、放送録音が次々出てきたりすれば、真価はさらに明らかになる気がしています。

yositaka

2016/08/24 URL 編集返信

No title
バイエル放送交響楽団との録音はCD-Rで多く出ていて、何枚か所有しています。

大分以前ですが、秋葉原に石丸電気があって、CD-Rを取り扱っていました。そこで購入したものです。

現在入手できるか分かりませんが、ネット販売専門のCDショップ・カデンツァでCD-Rを取り扱っていますので、まだ入手できるかもしれません。

最近、聴いていませんので、ザンデルリンク指揮バイエル放送交響楽団の演奏を聴いてみようと思います。

クラちゃん

2016/08/24 URL 編集返信

No title
クラちゃんさん、「裏青盤」と呼ばれるプライベート盤が多数存在し、専門の販売サイトがあることも承知していますが、どうも私はいまひとつ手が出ません。
音源が出回ることで評判となり、正規盤発売にこぎつける例も多いので、そちらに期待したいと思います。

yositaka

2016/08/24 URL 編集返信

No title
> yositakaさん

確かにそうですね。

数年後に正規盤がでることがあります。

参考までに私が所有しているザンデルリンク指揮バイエル放送交響楽団の正規盤CD2種、CD-R3種をブログにアップしました。
CD-Rは少し怪しい感じがしますが(汗)

クラちゃん

2016/08/24 URL 編集返信

No title
クラちゃんさん、拝見しました。
このうち私が架蔵しているのはショスタコーヴィチ、ブルックナー(4番は正規盤で出たので買いなおし)、田園、シベリウスの2番です。ミンツとのベートーヴェン、ヴァイオリン協奏曲は聴いてみたいですね。でも、ソリストがらみのものは正規盤が出にくいですね。
記事にないものでは、モーツァルトの交響曲第25番とピアノ協奏曲第23番で、ソリストはグリモーです。
「なんだ、持ってるじゃないかっ」と言われそうですが…

yositaka

2016/08/25 URL 編集返信

No title
> yositakaさん

おはようございます。

情報ありがとうございます。

グリモーのピアノ協奏曲は知りませんでした。

さすがザンデルリンクのファンですね^_^

クラちゃん

2016/08/25 URL 編集返信

No title
グリモーとのK488は好演でした。
このときグリモーはブゾーニのカデンツァを弾いているのですが、この直後、アバド指揮で同曲のレコーディングが決定。
ここでもグリモーは同じカデンツァを弾くつもりでした。
しかしアバドはこれに強く反対して、両者は決裂。レコーディングは中止となります。
アバドの主張は、モーツァルト自作のカデンツァがある曲はそれを弾くべきだ、というものでした。
カデンツァはソリストの領域です。そこに物申すほど、晩年のアバドは頑固者になっていたのです。
しかし彼の伴奏指揮者としての力量は、同じ時期のピリスとの演奏を聴いても薄味で、この「裏青盤」に記録されたザンデルリングの方がずっとすばらしいと思えます。
期せずして、アバドとザンデルリングの器の大きさの違いを露呈するエピソードになってしまいました。

yositaka

2016/08/25 URL 編集返信

No title
> yositakaさん

さすがにお詳しいですね^_^

裏青盤もかなりお持ちなんです。

裏青盤の中には正規盤で聴くことのできない貴重な演奏がありますね。

私の超お気に入りは、プレートル指揮SKDによるオッフェンバックの舟歌です。
このコンビの正規盤は見たことありませんが、裏青盤には名演があります^_^

クラちゃん

2016/08/25 URL 編集返信

No title
さすがyositakaさん、しばしば「燻し銀」とか評されるこのオーケストラの音色のレシピに言及され、ぼくは燻した銀を見たことないのですが「艶消し」というところに特に納得させられました。
ブラームスの交響曲は年とともにだんだん疎遠になり、この新旧両盤もずっと気になっていたものの、まだご縁がなく、来日公演の1番(だったかな)だけ数年前に激安セールで買って、でも未開封という。。。

Loree

2016/08/27 URL 編集返信

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ロレーさん、「燻し銀」はよく言われる言葉ですが、「アンサンブルが悪く、楽器が悪い」ことの言いかえではないか、といった意見も耳にします。そういうことに敏感な方も多いかと思いますが、私の感じたところではかなり意図的に作り出している要素も多いと思われます。近頃ではこのオーケストラもかなりメジャーになってきましたが、音色の個性は維持されているでしょうか。
ところでロレーさんも私同様、ブラームスに疎遠とのこと。音楽の完成度は明らかに高いのに、どうしてそうなるのでしょうね。

yositaka

2016/08/27 URL 編集返信

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Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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