メリーゴーランド40周年③大事なのは絵を見ないで絵を描くこと

四日市の子どもの本専門店、メリーゴーランド40周年を記念して開催された記念講演会の報告、3回目です。



今回は710日の講演会、第2部です。
講師は絵本作家のあべ弘士さんと、日本の創作絵本の大御所、自称「覚悟の決まった恥知らず」の田島征三さんです。
田島さんのお話はしばらくぶり。お元気な様子でほっとしました。初めてお話を聞き、酒宴まで共にしたのは1977年の「黒姫絵本の学校」で、もう41年も前のことになります。メリーゴーランド開店の少し前なんですね。


 
あべ「ずっと北海道だから、暑いのは合わない」
田島「僕は大丈夫。家にはエアコンもない。風もカラスも入ってくる。カラスは賢いよ」
あ「チンパンジー、イルカ、カラスの順に頭がいい。カラスは自販機使って落ちていたお金でジュースを買ったりする。公演の蛇口をあけて水を飲む。最近は蛇口を閉めるカラスもでてきたみたいです。チンパンジーのアイちゃんの息子は、10円玉を10枚ためると両替に来るそうですよ。人類は危ういです」
田「カラスは許せないね。狸やイノシシは嫌いじゃないのに…尊敬する画家の山下菊二さんはカラスを飼いならしていたそうだけど、病気でなくなった。鳥と一緒の生活のせいではないかと思ってる。あべさんはカバのウンコとか、平気なの」
あ「病気にはなりません。でも、カバのウンコはすごい。昔の旭山動物園のカバ舎は天井が低くてね。天井はびっしりウンコだらけ」
田「カバって、それが楽しいのかな」
あ「マーキングなんですよ。ウンコしたらおしっこかけて、尻尾をぶんぶん回して撒き散らすんです」
 
田「僕の昔の作品が、以前住んでいた日の出町の家に置きっぱなしだった。大きな絵がビニールで包んであって、その中にサワガニがいたんだ。腐ってカビが生えて大変な状態。そんな作品を200万円で買いたい人が現れた。それならなんとかしないと、と持って開封したら、ネコがマーキングしたの(笑) それでおもしろい絵になってね。修復に出すとき、「マーキング」を残したいと言ったら、これは化学変化するから駄目と言われた…三点の絵を100万円掛けて修復してもらったけれど、結局売れなかった」

あ「さっきアーサー・ビナードさんが朗読された『ねむらないですむのなら』はすばらしかったけれど、僕は逆に冬眠がしたい。6か月冬眠すれば、半年エネルギーを使わなくていいからね。でも、今の動物園には動物を冬眠させる技術がない。20年前に、帯広でヒグマを冬眠させることに成功したけれど、春になったら死んでしまっていた。冬眠には複雑な自然のメカニズムがあって、人間も好き勝手にはできないんだ。ところが4年前に上野動物園がツキノワグマを冬眠させるのに成功した。園長の子どものころからの夢だったらしい。今はIT技術が進んで微妙なコントロールできるようになってきた。
クマは冬眠から覚めると空腹で、おなかに良いものから食べて体を慣らしていく。山菜はクマにとって必要な食べ物。人間は気軽に採りに行っちゃいけないんです」

田「あべさんは、北極にも行ったんだね。よくあんな寒いところへ行くねえ」
あ「月の夏至だったから白夜で、日中は+4度で、それほどは寒くない」
田「白夜は、僕もモスクワで体験した。ちょっと中止半端な感じだな」
あ「やっぱり夜があるほうが落ち着くね。北海道も、夏場は8時まで明るい。酒を飲んでも、どうも落ち着かない」
田「北極に行った目的はシロクマ?」
あ「そうです。野生で3000頭くらいいる。鯨、ウミガラス、セイウチ…北極は生き物の宝庫で、不毛な地ではなく、とても豊かなところ。その様子をスケッチブックに、どんどん描いていったものが、そのまま絵本『こんちき号北極探検記』になった」



 
田「あべさんは絵が上手だね。僕は美大出たけれど、上手に描こうと思ったことがなくて、いつも評価はDなんだ。スケッチや淡彩は、正確に描くことが大事で面白いことではない。でも安倍さんのスケッチ力はすごくて、自転車に乗りながらでも描けるくらいなんだ」
あ「絵はもともと好きだった。でも本格的に描きはじめたのは20歳過ぎてから。それで早く技術を会得したくて、古い自転車に乗って左手で運転して右手で描く練習を続けた。大事なのは絵を見ないで絵を描くこと。鳥が飛んでいるのだって、絵を見ないでガーッと描けば何とかなる」
田「僕は、普通の絵ではだめなんだな。どんなものだって使って作品にしていく。廃校を利用して作った僕の美術館でも、昔の原画なんかはなくて、そこに物語が展開するような美術館にしたかった。風で動いたり、立体だったり…」
あ「でも、初期の絵本からのファンとしては、昔の原画も見たいですよね」



田「僕の絵は保存が難しい。『ふきまんぶく』は紙よりも絵の具のほうが分厚くて、動かすと崩れる。それで門外不出の絵もあるけれど、安曇野ちひろ美術館にも収蔵されていますよ。でも来館者は、いわさきちひろの作品だけ見て、奥のほうには、なかなか入ってこないけれどね。たまたま入ってきても『これ、ちがう!』とか『きらい』って言われちゃう」
あ「創作絵本の先駆者としての田島さんの努力は、本当にすごかったと思います」
田「当時はキタナイ絵は出版できないと言われた。でも、出版して1年半くらいすると、だんだんと子どもから支持されていると感じるようになってきた。長新太さんも、はじめはすごく反感を買われていたのね。70年代以降は、絵本の表現に注目が集ってきて、少しずつ風向きが変わってきた」
あ「長さんはとても穏やかな人だったけれど、晩年にBL出版で出した『絵本作家の日記』は批判的な発言も多い、凄い内容だったね」



田「人前では決して言わなかったけれど、とうとう我慢できなくなったのでしょうね。絵本のファンは現代美術を理解しようとしない、と言われていた。『はるですよ ふくろうおばさん』は、全てのものを包み込んでしまう、まさに現代美術の世界だ。彼の絵本が未だにヨーロッパで認められていないのは残念です。僕は国際絵本原画展の審査員にもなったが、各国の審査員の感覚が古いと思った。長さんがいまだに理解できないレベルなんだ」
あ「長さんの絵や堀内誠一さんの絵はとても好きだった。田島さんは今度童話作家として新作『モリモリさまの森(理論社)を書かれたんですね」



田「20年くらいかかった。今江祥智さんに見せたけど、なかなかいい顔をしていただけない。画家のさとうなおゆきは、僕が処理場反対運動をしていたときに、僕らの新聞に対抗して出した行政側の推進広報に絵を描いていた人です。素晴らしい絵描きなのに、と思って連絡し、話をしてみたら、こちらの考えに賛同して、今度は僕たちの新聞に、推進側のものと同じキャラクターを使って描いてくれることになった。それを知った「電通」はさとうさんに『これからはメディアに描けないようにしてやる』と恫喝してきたそうだ。…ところであべさんは、童話作家って言われることない?僕はよく言われる。絵本のテクストは書くから、確かに文章も書くけれど、何かちがう気がする」



あ「僕の作品なら『旭川』が文章よりですね。宮沢賢治は数時間だけ旭川に滞在したことがある。そのときの詩を、最初はそのままテクストにしようと思ったけれど、どうも…それで自分で文章もアレンジして作りました」
田「すばらしいね。特に賢治の心情をオオジシギという鳥の姿であらわしているのかいい」
あ「賢治と言うとよたかだけれど、習性が合わない。それよりも、急上昇を繰り返すオオジシギが、賢治にはぴったりだと思ったんです」


カバのウンチから始まったお話は、雑談のようでいて、お二人の人生を掛けた絵本への挑戦の話となり、オオジシギのように飛翔していました。
アーサー・ビナードさんと岡田和樹さんのお話ともしっかりと繋がっている。人間の傲慢への疑念、自然との距離感。そして子どもに対する確固とした信頼。
ぼんやりとしていたネコパパの頭の霧が晴れ、空を上昇するオオジシギになったように、見通しが開けていく気分になれるお話でした。

『ふるやのもり』『しばてん』『土の絵本』以来ずっと作品を追ってきたつもりの田島征三さんに比べると、増田嘉昭さんが個人的にも親友と言われるあべ弘士さんの絵本は、ネコパパにとってはまだまだ未知の世界です。
これからじっくりと読み深めていかなければ…と改めて思いました。
 
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コメント

コメント(2)
No title
つい最近、社会・人文科学系の専門書出版で有名な創文社が2020年で解散するとの報道に接し驚きましたが、加えてあれだけの老舗出版社でありながら社員数6名というのにも腰を抜かしました。
学生時代は団藤刑法でお世話になり、噂に聞いていたカール・シュミットのワイマール憲法教科書を最初に翻訳して身近なものにしてくれたのもこの出版社でした。
ヘンダーソン・クオントのミクロ経済学は経済を学ぶ者の必読書でした。
しかし、こうした専門書をきちんと読むことを要求する学校が減り、また部数を稼げる新しい定番教科書を供給できず、むしろどう見ても大量部数が望めないハイデッガー全集や神学大全の翻訳出版を良心的に続けてきたことが、今回の事態を招いたような気がします。

少子化が進む絵本出版・販売は、同じように厳しいでしょうが、書き手の多さに反比例して読み手の減少は、今後ますます出版の質の低下を招くのではないかと、本好きとしては悲観的になってしまいます。

gustav_xxx_2003

2016/07/23 URL 編集返信

No title
グスタフさん、児童図書出版も例外ではなく、数人で動いている社がほとんどです。ぱろる舎、佑学社、らくだ出版、ぬぷん児童図書出版など、消えた出版社も少なくありません。今のところは絵本の売れ行きで支えているところがあります。ただ、少子化がそのまま子どもの本の衰退に向かうかどうかは何とも言えないところがあります。

yositaka

2016/07/23 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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