メリーゴーランド40周年②児童文学と生態系には深いつながりがある

四日市の子どもの本専門店、メリーゴーランドが今年の75日で40周年。
201679日と10日の二日間、これを記念して開催された記念講演会にアヤママと二人で行ってきました。

 

今回は710日の講演会前半の報告です。
講師は詩人のアーサー・ビナードさんと、ハチの干潟調査隊代表で有機農家を営まれる岡田和樹さんです。




ビナード「岡田さんは29歳で僕よりも18歳も年下なんだね。僕はミシガンにいたとき、リョコウバトの絵本を読んで世界が変わった。かつて20億羽もいて、群れ飛ぶときには空が暗くなったというこの鳥が、僕の先祖がアメリカ大陸にやってきて生態系を壊し、191491日、最後の一羽が死んだ。自分の見ている世界はおかしい。ファンタジーと思った。この本『ドードーを知っていますか(ピーター・メイル)の中にある話。これは岡田さんにも影響を与えた本なんですね」





岡田「母の買ってくれた本です。現実と結びついて、僕の生き方を変えた本です。母は本が好きで、僕にたくさん読み聞かせをしてくれたんです。一日五冊は読んでくれました」
 
話は岡田さんの少年時代へ。小学1年生の時に出会った珍しいナメクジウオ。これが本と結び付き、瀬戸内海の環境変化に関心を持つようになっていく。
 
岡「ヒシガニという蟹がいるんです。子どものころはいくらでもいて簡単に取れた。それが高校生のころにはすっかりいなくなっている。お年寄りの漁師さんにタイの話も聞きました。昔はタイの上を歩けるほどの大漁だったのに、今では激減しています」
 
廃棄物処理場問題の起こったハチの干潟。コンクリート原料の海砂採集のために、水深が3メートルから30メートルになり、生態系が崩壊した。
 
岡「高校卒業の後、この現状を訴えて有権者を回り、署名を集めました。海の中は見えないので、人はなかなか変化に気付きません。僕が気付いた時には、工事が進んでしまっていました。有権者半分の署名を集めて視聴に届けたところ、県知事も動き、市議会で反対可決を出すことができました」
 
干潟に無数にあいている穴はアナジャコがあけたもの。3メートルも掘って空気を取り込み干潟を栄養分のジャングルに変えていく。生物多様性のすばらしさは、海辺を知っている人でなければわからない。
 
ビ「海辺の生き物と、よほど親しくならないとね。マゴコロガイ、シタゴコロガイ、アナジャコ…なんて、名前を付けた人は天才だね。僕はアメリカ育ちで、見てきた大規模農業はどこかに「化学」が入っていて、とても継続可能なものじゃなかった。『ホットケーキできあがり(エリック・カール)に出てくる里山は、自然そのままの農業をやっている。これは日本に来て、絵本に出会って、初めてわかったことです」



 
800年の歴史を持つ瀬戸内海の「石風呂」が今年2016年9月に廃業になる。
瀬戸内の風物詩だった海藻漁も終業。岡田さんは海藻を肥料にする古式の農業を始めて今年で5年目になる。古くから伝わっている循環型農業の実践者である。
 
ビ「工業化によって、継続すべき海と山の関係がなくなっていくんだね。リョコウバトの話と重なりますが、アメリカバイソンの話もあります。先住民の土地を収奪するために、白人は直接彼らと戦わず、生活すべてを依存していたバイソンをほぼ滅亡させた。瀬戸内海でも同じ問題が起きている。そんな流れに抵抗しているのが岡田さんです」
岡「僕は農家として海藻とりを継承しようとしています。これは、100年以上前に作られたカゴとミノガッパ。合理的にできていて、耐久性もある。100年たった今でも、昔と同じように使えるんです。でも、このワラを編める人がいない」
ビ「絵本『かさじぞう』のフアッションそのままだ」



 
岡「ワラは最後には土にかえります。壊れることも大切なんです。原発は『絶対壊れない』といわれていましたね。それでは土に還りません」
ビ「しかも、壊れるんです(笑 …でも、土には還らない)

岡田さんは現在八反の稲作をすべて古式農法で行っている。畦づくり一つ取っても詳しい資料はなく、昔からの農家に聞くしかない。最後の畦塗に間に合った経験も話す。
ビナードさん詩を朗読。「ねむらないですむのなら」…「海も放射能のスープと化して」というフレーズを含む。

ビ「詩集『ゴミの日』(理論社)を出すときに、この詩を入れたら賞はもらえないよ、と言われました。2008年のことです。岡田さんは山口県祝島の原発反対運動も支援されている。この島にはここにしかいない巻貝がいます。これは原発反対運動ではない。生命肯定運動です。2011年2月の防御戦では、海上保安庁の船が漁船にぶつかった。その時、僕は広島にいて、原爆の残した遺物たちの絵本『さがしています』(童心社)に取り組んでいました。




…現実とつながらなければ命は繋がらない。71年前には止められなかったことが、今ここでなら止められる。岡田さんのやっているのはドードーをつくらないこと。児童文学と生態系を守る問題は決して別のものではありません。宮沢賢治の生きた80年前の自然が、それから1世紀もたたないうちに亡くなってしまうなんてことがあってはならないと思うんです」


若い岡田和樹さんは、まだ一冊の著書もありません。
それなのにビナードさんは、彼の仕事をすでに出来上がった一冊の本として見つめていると感じました。
増田嘉昭さんも同じです。
二人は、かつて同じように一冊の著作もなかった岩瀬成子さんを、将来の児童文学を担う書き手と直感した今江祥智さんと同じ視線で彼を見ている気がします。
今江祥智の「月の目」が、こうして次の世代にバトンタッチされたのを目の当たりにしたような、そんな2時間でした。


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コメント

コメント(9)
No title
ブログとは関係ないコトですが…。
小学生の子供たちと「本のカルタ」を作っています。
「イ」なら「一寸法師」
「ロ」は「ロビンソンクルーソー」
「ハ」は「はなのみち」
みたいな感じです。
「「ヌ」が…困っています。
私が思いつくのは2作しかなくて、
でも、どちらもコドモには馴染みがないの。
何かご存じでしたら、教えてください。

ユキ

2016/07/20 URL 編集返信

No title
確かにあまりないですね。
検索したら「ぬいぐるみさんとの暮らし方」グレン・ネイブ著というのがありましたが、子どもの本でもなさそうです。
赤木かん子さんの「絵本・子どもの本総解説」95年版には「ヌバ」という写真集が紹介されていました。
漫画なら「ぬらりひょんの孫」という作品が「少年ジャンプ」で連載されていた記憶があります。
小説では「ぬばたま」というタイトルの作品が複数。あさのあつこさんの作品もありますが、どうも児童文学じゃないみたい。
ユキさんの二冊とは?

yositaka

2016/07/20 URL 編集返信

No title
横からすみません。(汗)
国立国会図書館の児童書で検索すると、以下がヒットしました。

沼の中の王子
フオルクマン 著,余川文彦 訳,堀内規次 絵 鎌倉書房 1948

沼のほとりの子どもたち
テープスィリ=スクソーパー 作,飯島明子 訳 偕成社 1987

沼の幸福 : 創作童話集
小野牧郎 作 あさを社 1982

沼の妖怪ホテル
妖怪ホテル編集委員会 編,マスリラ 絵 ポプラ社 2011

沼のばあさん
清水達也 作,阿部公洋 絵 ぬぷん児童図書出版 1985

mit*h_h*ga*e

2016/07/20 URL 編集返信

No title
検索の続きです。

ぬ~ぼ~なこころ
たちのけいこ さく 主婦と生活社 2010

ぬ~くぬく
飯野和好 さく,山本孝 え 農山漁村文化協会 2007

ぬぬぬぬぬ
五味太郎 作 偕成社 1994

ぬだらべ
岡本賢一 [著] 角川書店 2001

以上

mit*h_h*ga*e

2016/07/20 URL 編集返信

No title
なるほどーその手がありましたか。「ぬぬぬぬ」と「沼のほとりの子どもたち」は気付くべきでしたね。
「沼の中の王子」は1948年の刊行と言うことなので、内容にも興味が湧きました。リヒャルト・フォン・フォルクマン=レアンダーはドイツの外科医、童話作家で、普仏戦争で従軍した時フランスの宿営地から、故国の子供たちに向けて、戦争の悲惨な現実を忘れさせる童話を書き送ったのが童話集「フランスでの炉辺の夢想」、日本ではそのなかの「不思議なオルガン」が有名なようです。「沼の中の王子」もその一篇なのでしょう。

yositaka

2016/07/21 URL 編集返信

No title
「沼の中の王子」は原題「Heino im Sumpf」(沼の中のハイノ)でしょう。
ハイノは王子の名前です。
ここにドイツ語オリジナルの挿絵入りがあり、
gutenberg.spiegel.de/buch/richard-von-volkmann-leander-m-4364/14
ここに日本語訳があります。
www2.tbb.t-com.ne.jp/eposbungakukan/sub2-22.leander4.html

首をはねたり、手首を切り落としたり、結構怖い話です。(汗)

mit*h_h*ga*e

2016/07/21 URL 編集返信

No title
ありがとうございます。
「ぬーくぬく」と「ぬぬぬぬぬ」があったわね。
前者は小学校に絵本があるので、使わせていただきます。
私が思いついたのは
「ぬまばばさまのさけづくり」
「ぬすまれた夢」でした。
両方とも、本があるのですが、
子供たちは誰も知らないの><;)

ユキ

2016/07/21 URL 編集返信

No title
みっちさん、これはゲルマンの神話の影響の強い物語ですね。ワーグナーの「指輪」風な部分もあります。ヒロインの正体が不明なのもミステリアスだし。それにしてもこの和訳、時代かがっています。

yositaka

2016/07/21 URL 編集返信

No title
ユキさん、「ぬすまれた夢」はジョーン・エイキンさんの作品なんですね。「ぬすまれた○○」というのはほかにもあるかもしれません。
「ぬまばばさまのさけづくり」はデンマークのオルセンの作品ですか。
知らない本は、まだまだいっぱいありますねえ。

yositaka

2016/07/21 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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