世界経済危機


野口悠紀雄さんの分析力は大変明晰だ。
アメリカで起きた経済恐慌は決して「対岸の火事」ではなく、
貿易黒字維持のために継続した日本の円安政策により活性化された「住宅バブル」によるものと判断する。
値上がりを見越して収入の百倍もの住宅を借金で買い込み、贅沢な暮らしを謳歌するアメリカのライフスタイルを加速させ、破綻を導いた元凶の一つが日本だというのだ。
しかし、その円安による「ものづくりによる手堅い外貨獲得」の道も、その外貨の大半をドル建てにしているために、円高ドル安の波によって閉ざされた。
レートの変動によって日本は数十兆円規模の損失。
かくて
日本は経済基盤を根本的に危うくする事態になっている。
そこから脱出を図るには、
旧来の「重厚長大型」企業主体の経済基盤を転換し、賢明な資本活用による新たな経済の仕組みを作らなければならない、と野口氏は主張している。
それは輸出産業や農家などの自国の産業保護に血道を上げるのではなく、世界経済を舞台とした資本の適正な流動・活用をはかり、
ドルの価値変動にも磐石な経済基盤を作っていくことであるという。

その主旨は確かに納得ができる。
数的な根拠も明快だ。
しかし…
そのためには、食糧自給にこだわるのをやめ、原子力発電の開発にも目を向けていくべきである。
…というところになると、ちょっとまてよ、という思いに駆られる。

経済という観点から見れば、確かにそうかもしれない。
環境、文化、そして哲学の面から見れば、どうだろうか。
食糧の自給は、世界経済の合理性から見れば不利かもしれないが、
人の生を支える「背骨」は、自分の食うものは自分で確保している、という人間としての矜持にあるのではないか。
また、人類にとって未だ手に負えるものかどうかわからない「核」は、経済どころか人類の存在を危うくする問題をはらんでいる。人類の存在というのが言いすぎなら、人類の文化の存在といってもいい。経済だって、その文化の一つなのだ。

今日の朝日夕刊に、シャープが液晶パネルを製造している亀山工場を売却し、中国に新たな工場を建設するという記事が報じられていた。
堺にも新たな工場を建設するとのことなので、国内生産からの撤退ということではない。
しかし「輸出」によって収益が見込めないシャープが生き延びるための動きを示したとも受け取れる。
それは、経済学的に見れば、優れた戦略かもしれない。
が、ついこの間まで、優秀ブランドとして国内有数の業績を上げ、そのことを誇りに思っているはずの亀山工場の従業員にとって、閉鎖はどう受け止められるだろう。

お金の問題。それはほんとうに難しい。
J・R・R・トールキンが『指輪物語』で、長い苦難の旅を経て「消滅させた」魔の指輪。
自らの姿を隠し、敵を欺き、持つものに世界を支配する力を与える力がやどる。しかし一方で魂の荒廃と破滅の種を宿すもの。
それはまさに「お金」の喩ではないか、と思われてくるのだ。

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コメント

コメント(2)
No title
日本人そのものが劣化しましたよ。

zen*o*hara6*

2009/02/23 URL 編集返信

No title
そうでしょうか。確かに野口さんはこの本の中で日本人の「愚かさ」について、何度も指摘しています。しかしそれは決してすべてにおいてではなく、経済というものに対する読みが甘すぎることであって、その面を育成していくことが課題だと述べているのです。
今朝の朝刊に、今後の年金の推移についての厚生省の見解が報道されていました。そこでは日本が今後も三十年間経済成長を続け、所得が増大していくという仮定の下での見解が示されています。
経済破綻迫る今現在ですら、このように、根拠もあやふやな楽観論を堂々と示せる。ここに、日本人の脆さ、あるいは「愚かさ」が現れているようにも感じます。しかし、それがすべてではないと思いたいのです。

yositaka

2009/02/24 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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