「死者の書」近藤ようこ

死者の書(全2巻)



ビームコミックス
作者近藤ようこ,(原作)折口信夫
出版社/メーカー: KADOKAWA/エンターブレイン
発売日: 2015/8/24(上巻) 2016/5/6(下巻)
 
時は八世紀半ば、平城京の都が栄えた頃。いずれ氏神に仕える者として、館の奥深くで育てられた藤原南家の娘――郎女は、ある年の春分の日の夕暮れ、荘厳な俤びとを、二上山の峰の間に見て、千部写経を発願する。
一年後、千部を書き終えた郎女は、館から姿を消し、ひとり西へ向かう。郎女がたどり着いたのは、二上山のふもと、女人禁制の万法蔵院。結界破りの罪を贖うため、寺の庵に入れられた郎女は、そこで語り部の姥から、五十年前に謀反の罪で斬首された滋賀津彦と耳面刀自の話を聞かされる――
日本民俗学を築いた折口信夫の傑作小説を、初読四十年にしてついに漫画化。古代へと誘う魂の物語。
 
近藤ようこの画風は、
立体感のあまり感じられない、宙に漂うような軽味のただようもの。
主人公の郎女も、表情や肉体が感じられない「心ここにあらず」のありさまで描かれています。
その透明感が魅力です。
 
折口信夫の小説は手に取って読みかじった程度、比較なんて思いもよらないので、あくまで近藤作品として読みました。
古代、人と神、生と死の隔てがまだなかった時代、
人が「知の領域」と「創造の領域」に足を踏み入れたのは、はたしてどんなきっかけがあったのか。
それには「この世」と「あの世」を結び透ける独特の感覚の鋭さと、
世俗からの孤絶が必要でした。
 


物語の主人公、郎女は、死にきれぬ思いで殺害された大津皇子の魂にひきつけられるように、家を抜け出し、二上山のふもと、女人禁制の寺院=結界の地に足を踏み入れます。
そして、皇子の魂と交流。
さらには山と空の境界線上にあらわれる仏の姿に魅了されます。
 
禁を犯した罪を自ら償うという決意のもと、
郎女はその地にとどまり、本来彼女の地位では考えられない知識を求め、仏(≒皇子)に対する思慕のままに機織りを覚え、布を断ち、仏の衣作りを願いつつも、その手は意図せぬままに「巨大な世界のタペストリー」を生み出していくのです。
 
郎女が感情をあらわにしたり、長台詞を語ったりする箇所は一つもないにもかかわらず、その表情は繊細な美しさに満ち、
しなやかな所作の描写は作者の考える「作品」というものの理想の姿を語っているようにも思われます。

大津皇子と郎女
この死者と生者の交錯(交合?)は
そのまま折口信夫と近藤ようこに重なるイメージとも感じられます。
 
「なんだか意味がわからない」…
と感じられる方も多いかもしれませんが、うーん、私はこれ、とても好きですね。
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コメント

コメント(2)
No title
折口信夫は、中学か高校の頃にまとめて読んだ記憶がありますが、綺麗さっぱり忘れてしまいました(涙)

いまは漫画で読む時代なんですかねぇ。
だいぶん前のことですが、息子に「三国志」の古い文庫本全巻を貸してやったら、横山光輝の漫画で全部読んだからいいやと返却されてきました…

gustav_xxx_2003

2016/05/28 URL 編集返信

No title
さすがはグスタフさん、早熟ですね。私はやっとこ大学で読みかじった程度です。彼は猫いじめの好きな人物だったので、宿敵です
それはさておき、当作は川本喜八郎監督による人形アニメーションにもなっていて、映像・ビジュアル作家の創作意識を刺激するようです。近藤ようこはあとがきで「原作への入門編」と謙譲されていますが、こうした「メタモルフォーゼン」によって作品が息を吹き返すのも悪くないと思います。

yositaka

2016/05/28 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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