ランサム・サーガ、全面改訳なる

ちょっと古い新聞記事の紹介です。
 
冒険と成長の物語、新たな息吹 神宮輝夫さん、「ランサム・サーガ」シリーズ全面改訳
2016390500


「ランサム・サーガ」。自然の中で冒険し、成長する子供たちの群像を描いた、英国の作家アーサー・ランサム(1884~1967)による児童文学の古典といえる連作だ。その翻訳を50~60年代に手がけた青山学院大学名誉教授の神宮輝夫さん(84)が6年ほど前から全面改訳に着手し、今年1月、全12作を完結させた。国境や世代を超えて読み継がれる、その魅力とは――。

■あえて遊びに真剣に

サーガ第1作「ツバメ号とアマゾン号」は英国では30年に出版された。美しい湖水地方でヨットを操るふた組のきょうだいたちが出会い、無人島でテントを張ってキャンプ生活を送ったひと夏を描き、すぐに評判を呼んだ。その後は子供たちが活躍する舞台も広げ、巻を重ねた。最終巻の「シロクマ号となぞの鳥」は、第2次世界大戦を隔てた47年に出た。

もともと、ランサムは英紙の特派員を務め、レーニンやトロツキーらが主導したロシア革命の内幕に迫った経歴の持ち主。後年に機密指定解除された英政府の公文書では、英側に情報をもたらしたり、逆にロシア側への内通を疑われたりもしている。「サーガ」とは、一見かけ離れた前半生だ。

それに反して、彼が後半生で描いたサーガの作中世界を貫くのは、冒険に出かける、わくわくした気持ち。戦争や革命など、現実世界の影はみられない。

だが、新史料に基づくランサム伝を書いた英作家、ローランド・チェンバーズ氏は「ランサムはサーガの執筆で、自らを癒やしていたはずだ」と語る。物語は、政治に幻滅していた自身への「解毒剤」でもあったとの解釈だ。

神宮さんは「のんびり遊びに熱中しているふりをして、実はしっかり子供たちを『人間』としてとらえ、描いている」とみる。現実政治を知っていたランサムが、あえて遊びの世界に真剣に向き合っているからこそ、普遍的価値が生まれ、古典になったといえる。

■「会話しながら訳せた」

神宮さんが最初に「ツバメ号」の原書に出会ったのは大学院生時代、神田の古本屋だった。翻訳家の故・岩田欣三氏との共訳で岩波少年文庫として出版したのは58年。ハードカバーの箱入り全集12巻が67年から68年にかけて刊行された。

日本でも、大人になってから、主な舞台となった湖水地方を「聖地」として回るなど、熱心なファン層が存在する。ファンタジー「守り人」シリーズの作家、上橋菜穂子さんもその一人で、「私にとってはとても大切な物語」という。

ただ、例えば「ウナ電」(至急電報の意)など、時代をへて古びてしまった言葉遣いも多くなったことから、神宮さんは全面改訳を決意した。手に入れやすい岩波少年文庫で全巻を出すことになり、2010年7月に最初の「ツバメ号」、今年1月に最終作の「シロクマ号」が刊行された。

長大なシリーズものを、同じ翻訳家が全面的に訳し直すことはあまり例がない。神宮さんは、「登場人物たちも物語の中で成長している。今回はそれを追いながら、目の前の彼らと一緒に会話しているような気持ちで訳せておもしろかった」と、長年の伴走者として振り返った。

日本のランサム愛好家の中には、頻繁に出てくる帆船用語などについて助言を寄せた人もいて、神宮さんは「素人のこちらは、いろいろ教えていただいた」と語る。ファンたちとの「共同作業」も、古典再生に一役買った形だ。

■あの夏の光の中へ

上橋菜穂子さんは、今回の神宮さんによる改訳完了に当たって、次のような感想を朝日新聞に寄せた。
「40年も前に子どもだった私が、夏の光の中にいるような幸せな気もちで読んだ物語が、神宮先生の筆の力で新しい光を得て、いまの子どもたちをまた、あの夏の光の中へ連れていく。なんと素晴らしいことだろう! 先生は、物語に、長い、長い命を与えるお仕事を成し遂げられたのだ」(ロンドン=梅原季哉)
 


 
文化欄のスペースを大きく取った、児童文学の記事としては破格の扱いでした。
ランサム・サーガといえば…
2008年、池澤夏樹氏の講演会で『世界文学全集』編纂の裏話をお聞きしたときに
「児童文学は入らないんですか」とお尋ねしたことを思い出します。
お答えは…
「カニグズハーグ、ル=グゥィン、そしてアーサー・ランサムも、一巻を組むにふさわしい陣容ですね。しかし、難しいところもあります。それは児童文学のジャンルは圧倒的に英語圏が強いというところ。このジャンルを生み出したのが英国、そして発展させたのがアメリカということを考えると『世界』と銘打つには偏りが生じてしまのです。」
池澤さんは、とりわけランサム作品には思い入れのある口ぶりだったことが今でも記憶に残っています。
 
イギリス児童文学の精髄といえる、しっかりとした構成によって、子どもだけで船を操り、野外生活を楽しみ、「ごっこ」の範疇とはいえ、幾多の困難や事件を乗り越えていくワクワするような「読書の楽しみ」に読者を誘います。

ただ、細密描写に満ちたリアリズム大長編を、現代の子どもたちがどれだけ読みこなせるのか…は、ちょっと心配ですが。それはまあ、「届け方次第」ということでしょうね。
 


筑摩書房の『世界文学全集』にランサムが収録されなかったのは残念ですが、このほど改訳された岩波少年文庫は、ぜひ読んでみたいと思っています。
関連記事
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

ご訪問ありがとうございます

月別アーカイブ

検索フォーム

QRコード

QR