ミシェル・ベロフ、三度目の「プレリュード」

ドビュッシー:前奏曲集第1巻、第2



ミシェル・ベロフ(Pf)
録音:201258-11日、マルセイユ
LYRINXSACDハイブリッド)

 
クロード・ドヒュッシーは40年以上にわたるネコパパの偏愛作曲家。
よく聴くピアノ・ソロの曲は、ほとんどベートーヴェンのソナタとドビュッシーだけ…そんな状況が長い間続いてきた。最近は、すこし「軟化」しているけれど。
 
そんなネコパパでも、24曲からなる「前奏曲集」を一気に聴き通すなんて、めったにない。
それがこの一枚は…聴き始めたら途中でストップすることがどうしてもできなくて、とうとう最後の「花火」まで。

演奏者はフランスのピアニスト、ミシェル・ベロフ
…懐かしい名だ。
同曲、三度目の録音という。

最初は20歳の時にデビュー・アルバムとしてEMIに録音(1970.6.157.15)。



二度目は、DENON1994年に再録音。



最初から数えて43年。
…これは、ネコパパがドビュッシーに親しんできた年月と、ぴったり重なっている。
ベロフの最初のLPを、わくわくしながら名古屋駅前のヤマギワ電気レジに持っていったのを、昨日のことのように覚えている。
何しろ4000円もしたから…
 
20歳の時の録音は、宣伝コピーにあるとおり「シャープな線で描いた音の細密画」だった。鮮やかな打鍵で鳴らした、少しの曖昧さもないドビュッシー。
これに比べると1994年のDENON盤は、右腕の故障を克服した直後の録音ということもあるのか、テクニックの面では穏やかで、幾分落ち着いた演奏になっていた。でもどこか、遠慮がちで、自分を出し切れていないもどかしさもあった…気がした。

今回の録音はそのどちらとも違う。
打鍵は思い切って強く、深く打ち込まれるかと思えば、沈黙すれすれの静寂さに立ち返る。解釈もテンポも、以前とそんなに違っていないのに、まったく別の音楽を聴いているようだ。
 
17曲目からの4曲、「西風の見たもの」「亜麻色の髪の乙女」「とだえたセレナード」「沈める寺」は、この曲集の「肝」みたいな部分で、ネコパパはここだけ取り出してよく聴く。

最初の録音では「西風」の激しさの見事な表出に比べ「亜麻色」では乾いた響きとさらさらしたテンポが情感不足を感じさせ、そこにベロフのドビュッシー解釈が象徴的に表れていると思ってきた。 
ところが新盤では、「西風」は低音部にウエイトを移した、心の底から湧いてくる叫びのようだし、「亜麻色」の深い音色は情感以上の「詩情」が満ちてくる。
40年間のピアニストの人生の陰影と奥行きがそのまま音楽に表れている…と思うのは、同じ年月を聴き手として歩んできたネコパパの、ごく個人的な印象だろうか。
 
「さまざまな体験が自分を変え、演奏を成熟させていくのでしょう。ドビュッシーは印象派とか色彩派といわれますが、私はこれには賛成しかねます。モネの絵のような、霞がかかったような、淡くおぼろげなイメージを頭に描く人が多いのとは逆に、ドビュッシーの音楽は正確でクリアなものです。彼はペダルを踏みすぎることを嫌った。ですから私もペダルには最大限気を遣い、鋭敏な耳をもって音を聴き分けなければならないと思っているのです」

1999年の来日インタビューでのベロフの言葉である。
それから16年、ベロフの耳はますます鋭敏に、いっそう成熟したものになっているようだ。
ああ、こんなふうに年を取れたら!
 
【収録情報】
■ドビュッシー:前奏曲集第1
 デルフィの舞姫
 帆
 野を渡る風
 夕べの大気に漂う音と香り
 アナカプリの丘
 雪の上の足跡
 西風の見たもの
 亜麻色の髪の乙女
 とだえたセレナード
 沈める寺
 バックの踊り
 ミンストレル
 
■ドビュッシー:前奏曲集第2
 霧
 枯れ葉
 ヴィーノの門
 妖精たちはあでやかな踊り子
 ヒースの荒野
 奇人ラヴィーヌ将軍
 月の光が降り注ぐテラス
 水の精
 ピクウィック殿を称えて
 カノープ
 交代する3
 花火
 
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コメント

コメント(2)
No title
ドビュッシーのピアノ曲は、十代の頃にサンソン・フランソワの来日公演で聞いてしまって、ラヴェルともども、他の演奏が聞けなくなってしまいました。
「前奏曲」は、その後、ミケランジェリの録音を聞いて、少しは呪縛から解き放たれたように思います。
ただ、残念ながらミケランジェリの生の音を聞くことはできませんでした。
ベロフは、なぜかフランス音楽ではなく、東欧音楽の演奏の方が、私には親近感があります。
しかし、通しで全部聞くのは、ピアノ曲に慣れない私には厳しいものがあります。

gustav_xxx_2003

2016/05/19 URL 編集返信

No title
グスタフさん、確かにフランソワの演奏には、すごい魅力があります。彼にはもっと節制して、長生きしてもらいたかった。
ベロフは、バルトークの録音もあって、これもいいレコードでしたね。ドビュッシーは、明確な演奏はいいのですが、ちょっとクールでドライなところがあって、愛聴とまではいきませんでしたか、今回のものは脱帽です。

yositaka

2016/05/19 URL 編集返信

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プロフィール

yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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