岩瀬成子さんインタビュー記事


1月17日朝日新聞夕刊に、岩瀬成子(いわせじょうこ)さんのインタビュー記事が出た。
雑誌「日本児童文学」(日本児童文学社協会発行・小峰書店発売)1・2月号に掲載の短編『たまご』が注目されての記事。
この雑誌が新聞記事に取り上げられること自体が、めずらしい。
私などには「奇蹟的」にすら感じる。
長年購読を続けているが、これほど社会の中で目立たない雑誌は、少ないから。

該当号は『だれでもよかった』というテーマの創作特集を掲載。珍しく「いまふう」だ。これが記者の目を引いたのだろうか。一部、引用する。



…その中で、不思議なぬくもりを放って印象的な小説「たまご」を書いた作家の岩瀬成子さんに、物語についてきいた。(加来由子)
秋葉原の無差別殺傷事件を彷彿とさせる作品が目立つ中で、岩瀬さんはあえて事件から遠くはなれて、代わり映えのしない日常にびびをいれてくれる誰かを求める高校生を描いた。「最初はいやだなあと思いました。マスコミで流布されて、手あかがつきすぎている感じがして…」。テーマをきいた時、そう思ったという。
 事件からはなれたいと考えるうちに、事件を起こしたあの若者は、「だれでもいいから誰かを求めていたのかもしれない」と思うようになったという。そこから物語がうまれた。
「たまご」の主人公は、クラスになじめずに無口になった高校生の女の子。傾聴ボランティアとしてつきあう76歳の老女との静かな日々の中で、あるとき、老女の思いがけないふるまいに心が反応する。殻に閉じこもったそれまでの気分と、誰かと話をしたくなった新しい気分。閉じた世界にひびを入れたのは、女の子へのもっともらしい説教やわかりやすい励ましではなく、よく知らない他人の何げない行動だ。女の子の視点で、日常に起きた化学反応が丁寧に描かれる。
「普段の生活の中で、意識していなくても、だれかがだれかに作用を及ぼすことってある気がするんです。何かを見て、おなかの底がこそばゆくなって“心がくすくすする”時に、だれかに話しかけたくなる気持ち…。そういう変化を書きたかった」という。
(中略)
岩瀬さんは「私には、子どものころに社会や世間に抱いた“はっきりかみくだけたという感じのなさ”や“ちぐはぐ感”がしつこく残っている。子どもや若者を取り巻く社会の環境はかわったけれど、子どもは変わっていない。彼らを外からのイメージで類型化せず、当時の自分の“わからなさ”を描けば、それは今の子どもにも伝わるのではないかと、そう信じて書いています。(引用おわり)


高校生の主人公、松本は、クリスマスプレゼントに母から黄色いトートバッグをもらう。暗い色ばかり身につけている松本には違和感のある贈り物だ。
引っ越していった友達の家にいるらしい新しい住人にも、やっと入った滑り止めの女子高の雰囲気にも、違和感を感じる。

わたし、落ちかけているのかな

と、いう自覚も。そして、そこから一歩踏み出すために、「傾聴ボランティア」の仕事を試みる。
相手は一人暮らしの76歳の女性、香山さんだ。昔話も夢もごっちゃに話す香山さんの話をひたすら聴く。
「古い毛布に包まったみたいな心地よさ」を感じる彼女。

ちんまりと、できるだけ小さくまとまっていて、角も刺も生やさないようにして、触角を伸ばして外のいろんなものに触れたりせずに、閉じている感じ。…
あ、たまごだ、と思った。…
そのつるつるした冷たいたまごの感じが、わたし、気持ちよかったんだ。

しかし、そんな心地よいたまごの殻に、ぴっとひびがはいるような、小さな出来事が起こる。
そのことに気づいたとき、閉ざされかけていた松本の心にも、一つのひびが入る。
出来事のあと、引っ越していった友達の家の窓から顔を出した少女に、思わず声をかけてしまう。

「そのカバン、色がそっくりです」
「これ?」わたしはバッグを持ち上げた。あ、もしかして、幼稚園のバッグとおんなじと言うのかな、と思った。

そんな予想は、まったく外れる。二人の会話は、あきれるほどちぐはぐ。
しかし、少女と別れたあとも、松本は、もう一度笑いたくなってふり返る…


香山さんとの会話、結びの少女との会話。暗い色の服に、黄色いトートバッグ。
級友たちの話題が「まぶしくて」話ができなくなっていく主人公。
岩瀬成子の筆は、少しの無駄も、型どおりの台詞も、ない。
周囲に満ちあふれる違和感を、「たまご」となってかわす心地よさと、
ほんの少しひびを入れ殻をやぶることを「笑み」をもって受け入れる、主人公の足取りが、
どちらにも生きる術があるんだよ
と、手ごたえを持って差し出されるのだ。


「不思議なぬくもりを放って印象的な小説『たまご』を書いた作家」
と、加来記事は作者を紹介している。この言い方には荒川洋治の言う「甘やかし」がない。「もっともらしい説教やわかりやすい励まし」が、この業界ではまだまだ大手を振っていることも視野に入れての記述だ。見識の感じられる記事である。「アサヒコム」には載っていない。気づいてよかった。
おかげで、岩瀬成子の作品を、もっと読みたくなった。
ほかにもそう思う人が、少しでも多く、いてくれるといいのだが。

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コメント

コメント(2)
No title
岩瀬成子さん。二十歳の頃出会った。その頃はやたらと明るい人だと思っていたが・・・。記事を読んで不思議な人だと思った。彼女が児童文学作家という道に進んだのは天職だったんですね。

usa*****

2018/11/20 URL 編集返信

No title
> usa*****さん
ようこそ。なんと、岩瀬さんのお知り合いでしたか。
ブログを続けていると、意外な方に読んで頂けるんですね。嬉しいことです。
岩瀬さんはこれ以降も、素晴らしい作品を次々に書かれていて、いまや日本の児童文学の頂点に立つひとりと言っていいでしょう。
そういう意味では、まさに天職という言葉は当たっているかもしれませんね。ぜひお読みになってください。

yositaka

2018/11/20 URL 編集返信

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yositaka

Author:yositaka
子どもの本と、古めの音盤(LP・CD)に埋もれた「ネコパパ庵」庵主。
娘・息子は独立して孫4人。連れ合いのアヤママと二人暮らし。

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